2016年9月4日日曜日

非貨幣経済指数

 先日,野菜への年間支出額の世帯平均値を県別に出し,ツイッターで発信しました。

 それに対し,①物価の地域差を考慮すべし,②田舎では,野菜は贈与や物々交換で賄われることが多い,という意見が寄せられました。

 どちらも,ごもっともな指摘です。②でいう「贈与や物々交換」というのは,非貨幣経済という語で括られると思いますが,あらゆる財やサービスが貨幣を介して供される現在にあっても,こうした非貨幣経済が若干は残っているのも事実です。

 統計によって,この非貨幣経済がどれほど幅を利かせているかを可視化することができます。野菜への支出額と,実際の消費量(摂取量)を照合することによってです。前者が少ないのもかかわらず,後者が多いならば,野菜を非貨幣で賄っている度合いが高いことになります。

 私は,この2つの数値を都道府県別に収集し,消費量を支出額で除した,非貨幣経済指数を計算してみました。

 東京都でいうと,野菜・海藻への平均月間支出額は9744円です(2人以上世帯,『全国消費実態調査』2014年)。これを,東京の食料物価地域差指数(1.037)で除して,物価を考慮して標準化した支出額にします。その額,月間9396円(①)。*物価地域差指数とは,全国値を1.0とした場合の値です。

 2012年の厚労省『国民健康・栄養調査』によると,東京の成人男性の1日あたりの平均野菜摂取量は332.1グラム(②)となっています。年齢調整値です。

 よって東京の非貨幣経済指数は,②を①で除して,3.534となります。非貨幣経済の相対的強度を測る指標です。

 これは大都市・東京の値ですが,言わずもがな,田舎では値はもっと高いでしょう。下表は,47都道府県の計算表です。右端が,算出された非貨幣経済指数です。全県の最高値には黄色,最低値には青色マークをしています。上位5位は,赤字にしました。


 非貨幣経済指数が最も高いのは,中部の長野県です。相対比較ですが,全国で最も,贈与や物々交換などの非貨幣経済が幅を利かせていると判断されます。

 この結果に対しては,「さもありなん」という声も寄せられています。曰く,お米の3割は「縁故米」なのだとか。
https://twitter.com/39chibi/status/772095904425705472
https://twitter.com/tomoida/status/772221048351633408

 2位は,わが郷里の鹿児島県です。これは,よく分かります。離島に赴任した教員は,食べ物の費用がかからないのだそうです。「先生,食べんね」と,住民の方が野菜や魚をわんさと持ってきてくれます。それでいて,へき地手当もつくし,お金がたまり,市内に戻ったら家が建つと。

 ほか,指数の上位県は西に多いような印象を受けます。上表の指数をマップにしてみましょう。4つの階級幅を設け,47都道府県を濃淡で塗り分けてみました。


 中部のほか,西南で色が濃いですね。非貨幣経済が相対的に残存しているゾーンです。

 日本では,失業と自殺はとても強く相関しています。失業率が分かれば,自殺率を予測できるほどです。失職して収入(貨幣)が得られなくなるや,生活に必要な財やサービスが賄えなくなり,生活困窮に陥る。貨幣経済が浸透した社会の病理ともいえましょう。
http://tmaita77.blogspot.jp/2016/06/blog-post_24.html

 しかるに,非貨幣経済が残存している社会では,失業と自殺がリンクする度合いは低いのではないか。貨幣がなくても,生きていけるからです。アフリカや中南米の発展途上国は,失業率はメチャ高ですが,自殺率はとても低水準。その日暮らしに精一杯で,自殺などを考える暇がないためでしょうが,非貨幣経済が幅を利かしていることも要因としてあるでしょう。

 これは,海を隔てた遠い異国の話ですが,日本国内でも,非貨幣経済の残存度に地域差がある。今回みたのは都道府県差ですが,市区町村レベルまで下りれば,もっと高い指数値も出てくると思われます。鹿児島の離島部とかは,スゴイ値になりそう。

 ここで試算した非貨幣経済指数は,地域連帯の測度と読むこともできます。この高低によって,人々の生活の満足度(安定度)がどう違うか。人々の「つながり」の学である社会学の,重要課題といえましょう。