2月12日の記事において,2007年11月時点での学年別の通塾率を明らかにしました。それによると,公立小学校1年生の通塾率は15.9%ですが,学年を上がるにつれて数字が上昇し,中学校3年生では65.2%にまで達していることを知りました。
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/20/08/08080710.htm
ところで,これから先,子どもの通塾率はどう変化していくのでしょうか。分かっているのは,今後,子どもの数(分母)は確実に減少していく,ということです。よって,通塾する子どもの数(分子)が現状のまま維持されるとすると,通塾率は自ずと高くなっていくことになります。
はて,現在,通塾している子どもは実数にして,どれほどいるのでしょうか。2007年11月の通塾率の数字を使って,推し量ってみましょう。
上表の通塾率は,上記サイトの文科省調査から分かる,2007年11月時点の数字です。母数は,同年の各学年の全児童・生徒数です(文科省『学校基本調査』)。この2つから,通塾者の実数を割り出すことができます。通塾者の数は,小1は18万7千人,小2は22万8千人,…中3は78万2千人,というように見積もられます。小1~中3までを合算すると,約377万人です。
仮に,この数字が2030年,2050年まで維持されるとなると,通塾率はどういう数字になるでしょうか。2030年,2050年の各学年の母数(全児童・生徒数)は,国立社会保障・人口問題研究所の年齢別の将来推計人口(中位推計)から,おおよその見当をつけることができます。ここでは,6歳を小1,7歳を小2,…14歳を中3とみなしましょう。
http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/suikei07/suikei.html#chapt1-1
この仮定によると,2030年の小1児童数は約73万人と見込まれます。よって,2007年の小1の通塾者数(18万7千人)がこのまま維持されたとすると,通塾率は25.6%となります。幼い小1の児童にして,4人に1人です。さらに20年後の2050年になると,もっと値は高くなります。2030年と2050年の事態予測の表は,以下です。
真ん中の通塾者数は,2007年11月時点の数字が維持されると仮定しています。これによると,今からおよそ20年後の2030年には,中3の通塾率は96.2%にもなります。つまり,ほぼ全員が塾通いするわけです。2050年になると,中3では,母数(全生徒数)よりも通塾者のほうが多くなってしまいます。これはあり得ない事態ですが,通塾率が100%に近くなることは考えられます。
上の図は,2007年,2030年,および2050年の通塾状況を図示したものです。2007年のものは,上記の文科省調査から明らかにされたものです。2030年と2050年のものは,先ほどの事態予測の結果を表現したものです。通塾者の領分が拡大していくのが明らかです。
現在の通塾者数がずっと維持されるなんてあり得ない,といわれるかもしれません。でも,そうと言い切れるでしょうか。何が何でも子どもを引きずり込もうとする,学習塾関係者の(がめつい)努力も侮れません。生活保護世帯の子どもの通塾費を公的に援助しようという動きもあるくらいです。塾通いをすることがノーマルで,それをしないことはアブ・ノーマルという状況になりつつあります。
2030年,2050年の事態が上図のようになった場合,地域社会において,夕日を浴びながら遊ぶ子どもの姿というのは,ほとんど見られなくなるでしょう。夜の家庭の団欒というのも,難しくなってきます。私は,子どもの発育にとって,望ましくない事態であると考えます。家庭での「くらし」や地域社会での「あそび」という,子どもの生活構造の重要部分が浸食されることになるからです。くらし(家庭),まなび(学校),あそび(地域社会)という要素の均衡がとれているとき,子どもの生活構造は健全であると判断されます。
教育産業の側も,量の上で少なくなっていく子どもを奪い合うことばかりに躍起になるのではなく,その持てる資源を,量の上で増えていく成人に仕向けることも考えるべきであると思います。