2011年7月20日水曜日

本を読まない子ども

 現在,学校現場では,子どもの読書活動の推進に向けた取組が盛んです。2001年には,子どもの読書活動の推進に関する法律が制定されています。基本理念を定めた第2条は,「子どもの読書活動は,子どもが,言葉を学び,感性を磨き,表現力を高め,創造力を豊かなものにし,人生をより深く生きる力を身に付けていく上で欠くことのできないものである」と指摘し,子どもが自主的に読書を行えるような環境の整備がなされなければならない,と言及しています。
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/dokusyo/hourei/cont_001/001.htm

 上記の法律がいう「自主的に読書が行えるような環境」として最も望ましいのは,本を読むしかすることがないような環境です。テレビもラジオもインターネットもなく,知識を得るための媒体が書物しかない時代では,子どもはさぞ本を読んだことでしょう。2年半の実刑判決を受けた,堀江貴文・元ライブドア社長は,獄中ではひたすら読書に励むのだそうですが,何もない四角い独房に放り込まれれば,どんなに本嫌いの人間でも,それは可能でありましょう。永山則夫が獄中で本を読みあさり,ベストセラーとなった『無知の涙』をしたためたことも,よく知られています。

 悲しいかな,今の子どもたちは,それとは真逆の環境に置かれています。周りは刺激物だらけで,本を読むことに集中できたものではありません。しかるに,このような社会的状況を共有しながらも,本を比較的多く読む子もいれば,全くそれをしない子もいます。今回は,後者の,本を全く読まない子どもがどれほどいるかを明らかにしようと思います。

 文科省の『全国学力・学習状況調査』では,対象の児童・生徒に,「家や図書館で,普段(月曜~土曜),1日あたりどれくらいの時間,読書をしますか」と問うています。2010年度調査の結果でいうと,この問いに対し,「全くしない」と答えた者の比率は,公立小学校6年生で20.7%,中学校3年生で38.1%です。中学校3年生では,おおよそ4割の子どもが,平日,全く本を読んでいないことになります。
http://www.nier.go.jp/10chousakekkahoukoku/06todoufuken_chousakekka_shiryou.htm

 なお,この数字は,地域によってかなり違います。下表に,47都道府県の比率の一覧を掲げます。


 小学校6年生,中学校3年生とも,比率が最も高いのは大阪です。大阪の中学校3年生では,半分以上の生徒が,平日,全く本を読んでいないと回答しています。反対に,双方の学年とも比率が最も低いのは長野です。大阪と長野では,いったい何が違っているのかしらん。香川では,小6と中3の落差が大きくなっています。


 平日,読書を全くしない生徒の比率を,中学校3年生について地図化してみました。黒色は,45%を超える県です。石川,大阪,熊本,および大分が該当します。黒色と赤色の高率地域は,近畿と九州に偏在しているようにみえます。本を読まない子どもの出現率には,地域性のようなものがありそうです。

 ところで,教育社会学の観点からすると,子どもの読書行動は,社会階層によって異なるのではないか,という問いが提起されます。読書行動の社会的規定性という問題です。東京都内の地域別に,子どもの図書館利用率のような指標が出せるようなので,この統計を使って,実証作業を行ってみようと思っています。
http://www.library.metro.tokyo.jp/15/15710.html