2012年1月20日金曜日

「こころの状態」の学歴差

現代は,「こころの病」の時代といわれます。「病」というのはオーバーであるにしても,心の内に何らかの「負担感」を抱えた人は,決して少なくはないでしょう。

 心の負担感の程度を測る尺度として,K6スコアというものがあります。アメリカのKasselerらが考案したもので,以下の6つの設問に対し,「まったくない」,「少しだけ」,「ときどき」,「たいてい」,「いつも」,のいずれかで答えてもらいます。

 ①神経過敏に感じましたか?
 ②絶望的だと感じましたか?
 ③そわそわ,落ち着かなく感じましたか?
 ④気分が沈みこんで,何が起こっても気が晴れないように感じましたか?
 ⑤何をするにも骨折りだと感じましたか?
 ⑥自分は価値のない人間だと感じましたか?

 「まったくない」は0点,「少しだけ」は1点,「ときどき」は2点,「たいてい」は3点,「いつも」は4点とし,6つの設問への回答を点数化します。この方法によると,対象者の心の負担感の程度を,0点から24点までのスコアで計測することが可能です(4点×6=24点満点)。このスコアのことを,K6スコアといいます。この値が高いほど,心の負担感の度合いが大きいことになります。

 厚労省『国民生活基礎調査』の2010年調査では,対象者の学歴別に,このK6スコアの分布が明らかにされています。20歳以上の大学卒業者のスコア分布は,「0~4点」が72.6%,「5~9点」が18.1%,「10~14点」が7.0%,「15点以上」が2.3%,となっています(不詳は計算から除外)。階級値の考えに依拠して,「0~4点」は2点,「5~9点」は7点,「10~14点」は12点,「15点以上」は20点,とみなすと,この層のK6スコアの平均点は,以下のように算出されます。

 {(2点×72.6)+(7点×18.1)+(12点×7.0)+(20点×2.3)}/100.0 ≒ 4.02点

 他の学歴ではどうでしょう。上記の調査では,6つの学歴グループのスコア分布が明らかにされています。この結果を使って,各グループのK6スコアの平均値を出してみました。20歳以上の成人のデータです。


 スコアが最も高いのは,小学校・中学校卒です。義務教育を終えてすぐに社会に出た人たちですが,やはり諸々の不利な条件を背負わされてしまうのでしょうか。心の負担感の度合いが,他の学歴グループに比して大きくなっています。

 K6スコアの平均点は,学歴の高低とおおよそ関連していますが,直線的な関連というわけではありません。ボトムは大卒で,大学院卒になると,反転してスコアが上がります。大学院まで行くと,身の振り方がかなり制限されます。博士号を取得したにもかかわらず定職に就けない無職博士の問題については,このブログで繰り返し書いてきました。彼らが深刻なストレスにさらされていることは,いうまでもありません。

 今みたのは20歳以上の成人全体の数字ですが,若年層に限定したデータでは,もっと面白い傾向が出そうだなあ。また,男性と女性でどう違うかも興味深いところです。性別と年齢層別に,K6スコアの平均点の学歴差をみてみましょう。下図は,結果を折れ線グラフの形に凝縮したものです。


 まずは,左側の性別の曲線をご覧ください。どの学歴グループでも,男性より女性のスコアが高いようです。女性のほうが,心の負担感の程度が大きいことが知られます。

 曲線の型をみると,男性は,先ほどみた全体の型とほぼ同じですが,女性は,何と大学院修了者のスコアが最大となっています。最高学歴のグループで,最も心の負担感が大きい,ということです。女性の場合,大学院まで出てしまうと,結婚相手が見つからない,心ない偏見にさらされる,といった不利益もあることと思います。

 続いて,右側の年齢層別の曲線をご覧ください。まずグラフをタテにみると,学歴を問わず,高齢層より若年層のスコアが高くなっています。昨今,若年層が厳しい状況におかれていることを思うと,さもありなん,という感じです。

 次に,グラフをヨコにみてみましょう。最も注目されるのは,20代の傾向です。20代の場合,曲線がU字型になっています。K6スコアの平均値は,小・中学校卒業者で最も高いのですが,その次が大学院修了者となっています。20代の最高学歴保有者が,心に重い負担を抱えていることが知られます。このことに,説明は要りますまい。

 40代の曲線は,きれいな右下がりの型になっています。学歴が高い(低い)ほど,心の負担感が小さい(大きい)傾向です。この世代では,学歴主義の純度が高いようです。この世代までは,大学院修了者の就職難も,今ほど深刻ではなかったのだろうな。30代は,20代と40代の中間的な傾向です。

 「学歴主義」という言葉が出ましたが,学歴主義とは,富や地位の配分に際して,学歴を重視する考え方のことです。わが国が学歴主義の社会であることは,指摘するまでもありません。しかし,無目的に高い学歴を取得しても,あまりいいことはないようです。とくにメンタルヘルス面において。

 上図に描かれた,20代のU字型のK6スコア曲線は,私にとって発見でした。今後,世代を下るにつれ,U字の形が明確になっていくのではないでしょうか。これから先の動向が注目されます。

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