2012年5月21日月曜日

22歳の危機

幸か不幸か,現代の日本社会に生まれ落ちた人間は,2度の大きな選抜を経験します。15歳と18歳の時点においてです。説明は要りますまい。15歳は高校入試,18歳は大学入試の時期に相当します。少子化により入試競争が緩和されてきているとはいえ,15と18の春が人生の大きな節目になっていることは今もそうでしょう。

 ところで最近,これらに次ぐ「第3の選抜」とでもいうべき時期が注目されています。いつかというと,22歳です。22歳といえば,大学の卒業年齢です。大学進学率が50%を超えている現在,多くの者がこの時期に学校から社会への移行(Transition from School to Work)を経験します。

 別に22歳でなくてもよいのですが,ご存知の通り,わが国は新卒採用の慣行が非常に強い社会です。新卒時の就職に失敗した場合,翌年以降は「既卒」の枠に放り込まれ,就職活動で大きな不利益を被るといいます。

 このような事態を避けるため,新卒時の就職に失敗した者の中には,翌年も新卒枠でシューカツを行うべく,自発的に留年する者もいます。多額の学費負担をも厭わずです。文科省はといえば,経団連に対し,「卒業後3年までは新卒者として扱ってほしい」という要望を出す始末。わが国の新卒至上主義は,お上をもひれ伏せさせるほど強固なものであることが知られます。

 見方を変えれば,新卒時(22歳時)に「学校から社会への移行(TSW)」が叶うかどうかが決定的に重要である,ということです。現代日本ほど,「22歳」という年齢に対する社会的な関心が強まっている社会はないでしょう。最近,『22歳負け組の恐怖』(中経出版,2012年)という本が出されました。大学研究家の山内太地さんの筆になる本です。「負け組」という言葉が何とも強烈です。
http://www.chukei.co.jp/business/detail.php?id=9784806143239

 ここでいう「負け組」は,数でみてどれほどいるのでしょう。文科省の『学校基本調査(高等教育機関編)』から,大卒者の進路状況を知ることができます。設けられている進路カテゴリーは,①進学,②就職,③臨床研修医,④一時的な仕事,⑤左記以外の者,⑥死亡・不詳,です。

 これらのうち④~⑥が,しっかりとした行き場のない,いわゆる「無業者」です。この3カテゴリーに該当する者の数が,最近どう推移してきたかを調べました。卒業生全体に対する比率も出してみました。


 2011年の3月卒業者でみると,大卒者55万人のうち,無業者は12万人ほど。比率にすると,5人に1人が無業者です。うーん,12万人・・・。この中には,大学院等の受験浪人や最初から就職を希望しなかった者もいるでしょうが,多くは,残念ながら就職が叶わなかった輩ではないかと思われます。12万の7割として,その数,およそ8万4千人なり。

 毎年,これほどまでの数の就職失敗者が出ているとすると,これはただならぬ事態です。彼らの多くは,今後の成り行きに対して悲観的な思いを抱いています。絶望のあまり,自らを殺めてしまう者だっています。近年,進路の悩みや就職失敗という理由によって自殺する大学生が増えていることは,3月14日の記事でみた通りです。

 さて,ようやく本題ですが,22歳の自殺者数はどう推移してきているのでしょうか。警察庁が発表している,進路の悩み・就職失敗による自殺者数の裏には,かなりの量の「暗数」が潜んでいるものと思われます。たとえば,遺書がなく,理由の分析の仕様がなかった自殺者など。

 就職失敗を苦にした自殺であっても,遺書がなかったばかりに,闇(理由不詳のカテゴリー)に葬られたケースは少なくないでしょう。22歳の危機の量(magnitude)を測るには,自殺者の頭数そのものに注目することも必要かと思います。

 最近は,厚労省の『人口動態統計』の公表データがとても充実してきており,1歳刻みの詳細な年齢別死因統計をみることが可能です。私は,本資料のバックナンバーをたどって,2001年から2010年までの22歳の自殺者数を明らかにしました。


 22歳の自殺者数は,2001年では257人でしたが,その後増加し,2007年には300人を超えます。それからアップダウンを繰り返し,最新の2010年データでは302人となっています。自殺者の頭数という点でみても,最近の22歳の危機状況が強まっていることが明らかです。

 なお,この期間中,ベースの22歳人口(a)は減っています。故に,自殺者数を人口で除した自殺率もかなり高まっています。あと一点,全死因に占める自殺の比重がグンと伸びていることにも注目されたし。2010年では,22歳の死亡者(550人)の54.9%が自殺者です。

 最後に,22歳の自殺率の伸びを全人口と対比した図を掲げておきましょう。上表にあるように,この期間中,22歳の自殺率は15.7から22.4までアップしました。1.43倍の伸びです。このような伸びは,人口全体の統計では観察されないことをお知りおきください。


 自殺統計から知られる危機状況の高まりは,全年齢の中で,22歳が最高なのではないでしょうか。22歳の危機,侮るなかれです。

 ところで,近況を観察してみたい年齢がもう一つあります。それは「35歳」です。35を過ぎたら正規雇用は無理,35を過ぎたら結婚できない・・・。「35歳の壁」を強調する言説は数多くあります。この年齢の者が抱く焦燥感は,決して小さなものではないでしょう。奇しくも,今の私は35歳です。自分の状況を客観的に眺める手立てにしたいと思っています。