今回は,自分の生活(進学,就職,結婚等)に関する悩みや不安を持っているも者がどれほどいるかをみてみます。
内閣府の『国民生活に関する世論調査』では,20歳以上の対象者に対し,悩みや不安の有無を尋ね,あると答えた者には,その具体的な事由を複数回答で問うています。その選択肢の一つとして,「自分の生活(進学,就職,結婚等)」というものが用意されています。
http://www8.cao.go.jp/survey/index-ko.html
2010年調査の結果によると,全対象者のうち,悩みや不安があると答えた者は68.4%であり,このうちの16.4%が上記の事由を選択しています。したがって,自分の生活のことで悩んでいる者が全対象者に占める比率は,以下のようになります。「68.4%のうちの16.4%」です。
68.4 × 0.01 × 16.4 ≒ 11.2%
20歳以上の国民の1割が,就職や結婚といったライフイベントに関することで悩んでいるようです。この種の悩みは,時代とともに増えてきていることでしょう。また年齢層別にみれば,若年層で顕著であると思われます。
では,時代と年齢層という2変数によって,上記の比率がどう変わるかを上から俯瞰してみましょう。例の社会地図図式を使います。横軸に時代(隔年),縦軸に年齢層(5歳刻み)をとったマトリクス上の各地点が,比率の水準に依拠して塗り分けられています。
まずヨコの時代軸でみると,どの年齢層でも,自分の生活のことで悩む者の比率が増しています。私の年齢層(30代後半)でいうと,1990年は赤色だったのが世紀の変わり目には緑色になり,2006年以降は紫色のゾーンに侵食されています。紫色は,10%台の後半です。
次にタテの年齢軸でみると,当然ですが,就職や結婚のようなライフイベントのことで悩む者は若年層で多いようです。最近の20代前半では,約4割の者がこの種の悩みや不安に苛まれています。
かつてはごくフツーに経験できた就職や結婚ですが,最近では一筋縄ではいかなくなっています。就職失敗を苦にした大学生の自殺が社会問題になっているほどです。なお,こうした悩みは徐々に上の年齢層にも広がってきていることも指摘しておくべき点です。
上記の図は,現代日本社会の病理を可視的に表現したものといえましょう。私が専攻する社会病理学の究極の課題は,社会の病理度を診断することですが,「時代×年齢」の社会地図は,そのための格好の道具であると思います。ちなみに,この図式を最初に考案されたのは,私の恩師の松本良夫先生です。
次回は,収入や資産のことで悩んでいる者の量を,同じ形式で表現してみようと思います。