「希望学」という学問領域が生まれつつあるそうですが,人間にとって希望(hope)とは重要なものです。
今の生活は貧しくても,これからよくなっていくという展望が開けていれば,それほどの苦痛にはならないものです。逆をいえば,今の生活が豊かであっても,これからは悪くなっていくことが確実であれば,暗澹たる思いに苛まれることになります。
現在の日本では,前者よりも後者に該当する者が多いのではないでしょうか。内閣府が毎年実施している『国民生活に関する世論調査』では,20歳以上の対象者に対し,「これから先,生活はどうなっていくと思いますか」と尋ねています。今回は,この設問への回答が過去から現在にかけてどう変化してきたかを仔細に跡づけてみようと思います。
http://www8.cao.go.jp/survey/index-ko.html
まずは,1970年(昭和45年)から2011年までの40年間にかけて,この設問への回答分布がどう変わってきたかをみてみましょう。調査が実施されなかった1998年と2000年については,前後の年の中間値を充てています。
いかがでしょう。「よくなっていく」と答えた者は,始点の1970年では37.4%いましたが,終点の2011年では8.7%にまで萎んでいます。反対に,「悪くなっていく」の比率が5.9%から30.8%へと増えているのです。
1990年代以降,怪しい黒色が広がってきています。前回と前々回の記事では,日本社会の今の世相を「暗い」,「活気がない」と考える人間が増えていることを明らかにしたのですが,展望不良に苛まれる人間も多くなってきています。「失われた20年」,さもありなんです。
今日では,3人に1人が展望不良状態にあるのですが,展望不良が蔓延している度合いは,年齢層によって異なるでしょう。私は,1990年以降の各年について,「今後の生活は悪くなっていく」と答えた者の比率を,5歳刻みの年齢層別に明らかにしました。
この手の煩雑なデータを統計図で表現しようという場合,例の「社会地図」図式がもってこいです。この図式によると,それぞれの年における各年齢層の展望不良率を上から俯瞰することができます。以下に作品を展示します。*調査が実施されていない1998年と2000年は除外しています。
比率の高低を,色の違いから読み取ってください。1990年代の後半以降,中高年層の部分に紫色が広がってきています。紫色は,展望不良の者が3割以上いることを示唆します。2008~09年では,50~60代にかけて黒色になっています。展望不良率4割超。08年のリーマンショックの影響でしょう。
2011年では,50代後半から60代前半が黒色です。年金制度の崩壊や,生活保護基準の引き上げなどがいわれているご時世です。この年代では,老後の生活不安を抱いている者も多いことでしょう。
若年層は,展望不良の者の比率が比較的低いのですが,以前よりも率が上がってきていることは共通です。社会に出たばかりの20代において,「これから生活が悪くなっていく」と考える者が1~2割もいる(赤色)というのは,見方によっては,尋常ならざる事態であるともいえるでしょう。
『国民生活に関する世論調査』では,不安や悩みの有無や,その具体的な内容についても問うています。次回以降,その結果を「社会地図」図式で俯瞰していくことにいたしましょう。