働くママさんたちによる保育所増設運動が起きていますが,子どもができたことで職を辞すことを強いられる女性就業者も少なくないと思います。
「育児」という理由による女性就業者の離職率を出せないものか,と前から思っていたのですが,総務省『就業構造基本調査』の就業異動統計を使うことで,その近似値を出せることを知りました。今回は,都道府県別の試算結果をご報告しようと思います。
2007年の『就業構造基本調査』によると,2005年10月~2006年9月までの間に,「育児」という理由で離職した25~34歳の女性は169,700人となっています。やや古い数値ですが,1年間に17万人ほどの女性が,育児を理由として職を離れるのですね。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2007/index.htm
2005年の『国勢調査』をみると,同年10月1日時点における,6歳未満の幼子がいる同年齢の女性就業者は991,868人です。これを母数とみなすと,上記期間の育児離職率は17.1%と算出されます。幼子を抱える女性就業者の6人に1人が,育児をするために職を辞していることになります。
私は,この値を都道府県別に計算しました。下表は,その一覧です。分子と分母の数値も漏れなく掲げます。また,全県中の順位も添えています。黄色は最高値,青色は最低値です。赤色は上位5位です。
最高は神奈川の28.6%,最低は島根の5.8%です。この両端では,幼子がいる女性就業者の育児離職率が5倍近くも違っています。前者は3人に1人ですが,後者は17人に1人です。
しかし,首都圏の1都3県が軒並み上位5位にランクインしているのは注目されます。ほか,大阪が6位,愛知が7位など,都市的な県において,働く女性の育児離職率が高いことが知られます。この点は,育児離職率を地図化すればもっとクリアーです(下図)。
都市部では,子を預かってくれる保育所が足りない,という事情があるのでしょう。3月27日の記事では,各県の保育所供給率という指標を出したのですが,上表の育児離職率との相関係数を計算したところ,値は-0.6746となりました。保育所供給が少ない県ほど,働く女性の育児離職率が高い傾向が明瞭です。
ほか,三世代家族の多寡や男性の育児参加度など,女性の育児離職率と関連すると思われる要因は数多し。こういう要因解析をした研究ってあるんかな。
ちなみに,『就業構造基本調査』の離職統計で設けられている理由カテゴリーには,興味深いものが結構あります。「労働条件が悪かった」,「家族の介護」・・・etc。劣悪な労働条件を理由とした若者の離職率が高い県はどこか,介護離職率が高い県はどこか。こういう問題も追及できます。
『就業構造基本調査』も宝の山です。間もなく最新の2012年調査の結果が公表されるでしょう。存分に活用しようではありませんか。