2013年5月28日火曜日

国民のイライラ化・自己愛化?

 1990年代以降,日本社会に暗雲が立ち込めてきたといわれます。この期間中に自殺者が激増したことは広く知られていますが,外向的な逸脱である犯罪の量はどう変わったのでしょう。

 警察庁の『犯罪統計書』によると,1990年の刑法犯検挙人員(交通業過除く)は29.3万人ほどでしたが,20年を経た2011年では30.5万人となっています。微増というところです。
http://www.npa.go.jp/toukei/index.htm

 罪種別にみても傾向はほぼ同じですが,今世紀以降,数が大幅に増えている罪種が一つあります。それは暴行です。人をぶん殴るとかですが,相手に怪我をさせるには至らなかったものです。怪我をさせた場合は傷害として計上されます。

 暴行を働いて御用となった者は,1990年では8,058人でした。この値を1.0とした指数値の推移をみてみましょう。比較対象として,刑法犯全体のカーブも添えています。


 刑法犯全体のカーブはほぼフラットです。暴行のそれは,1990年代は右下がりでしたが,今世紀になってから急に右上がりに転じています。2011年の指数値は2.7です。この20年間で,暴行の検挙人員は3倍近くにも増えました。

 みんなイライラしていて,些細なきっかけで他人をぶん殴る・・・。駅員が客に殴られる事件も多いそうな。ちなみに,加害者と被害者が面識なしの暴行事件も増えています。
https://twitter.com/tmaita77/status/337903588921704448

 次に,年齢層別の傾向をみてみましょう。私は,1990年以降の暴行検挙人員数を年齢層別に明らかにし,上図と同じ指数値カーブを描きました。各層の人口変化も考慮するため,人口の指数値カーブも添えています。人口統計の出所は,総務省『人口推計年報』です。


 予想に反してといいますか,少年の暴行検挙人員は減っています。イライラを募らせアグレッシブになっているのは大人たちです。

 カッコ内は最新の2011年の指数値ですが,暴行検挙人員は30代は4倍,50代は5倍,60歳以上の高齢者に至っては40倍近くにまで膨れ上がっていることが知られます。巷でいわれる「暴走老人」,さもありなん。今の60歳くらいって,学生運動の全盛世代ではないかな。

 とはいえ,暴行を働く確率という点では,エネルギーみなぎる若年層のほうが高いことでしょう。最後に,検挙人員数を人口で除した出現率を出してみましょう。私が属する30代でいうと,2011年の暴行検挙人員は4,897人,ベースの人口は1,781万人ほどですから,10万人あたりの出現率は27.5ということになります。

 この出現率を年齢層ごとに出し,各々をつないだ年齢曲線をつくりました。下図には,1990年,2000年,および2011年の曲線が描かれています。


 世紀の変わり目までは,低年齢層ほど率が高い「右下がり」の型でしたが,2011年では,30代をピークとした「山型」になっています。人を殴るような粗暴行為を働くのは,以前は自我が未熟な子どもでした。ところが今では,働き盛りの大人がそういうことをしでかすようになっています。
 
 働き盛りの層にイライラが蔓延しているというのは,分かる気がします。今の職域は問題だらけですしね。それに世代論的にいえば,今の30代,いみじくも私の世代は,学校卒業時に超就職氷河期を経験したロスジェネです。非正規雇用に留置かれている者も多いことでしょう。上の曲線は,そした生活条件の表れとも読めます。

 あと一点,申したいことがあります。自己愛の人間が増えていることとの関連可能性です。自己愛性人格障害という病がありますが,この手の人は,批判されたり注意されたりするとすぐに逆ギレします。

 大手マスコミの記者や大企業の重役が駅員に暴行を働いた,という事件が報じられることがあります。注意されて腹が立った,両替を断られて逆上した・・・。こういう報道に接するたびに,自己愛なんじゃ・・・という感想を持つのです。

 現代は「人格障害の時代」ともいわれます(岡田尊司氏)。今回の統計は,こうした時代の病理を反映したものといえるかもしれません。私の個人的な印象ですが。