2016年6月17日金曜日

保育士の年収の変化

 保育所不足の問題と相まって,いろいろ取り沙汰される保育士の年収ですが,このブログでも幾度かにわたってデータを示してきました。

 今回は,ここ数年でどう変わってきているのかをみてみようと思います。景気回復の影響により,労働者の給与は上がっていると聞きますが,保育士はどうなのか。給与を公的な補助金で賄われる保育士は,その恩恵を受けていないのではないか。

 おおかた,予想がつくことですが,データを出してみましょう。

 資料は,厚労省『賃金構造基本統計』です。2010年と2015年のデータをもとに,保育士の推定年収を計算してみました。各年6月の平均月収(諸手当込)に,前年の年間賞与額を足した値です。2010年の推定年収は,同年6月の月収の12倍に前年(2009年)の年間賞与額を足して出しました。2015年のそれは,「同年6月の月収×12+2014年の年間賞与額」です。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html

 これによると,保育士の推定年収は2010年が324.9万円,2015年が323.3万円と算出されます。増えているどころか,微減しています。

 これは全国の推定年収ですが,県ごとにみると様相は違っています。同じやり方で,2010年と2015年の保育士の推定年収を都道府県別に出してみました。申し忘れましたが,短時間労働者を除く一般労働者のデータです。


 2010年から2015年にかけての増分は,全国値ではマイナス1.6万円ですが,県別にみると様相は実に多様です。増えている県もあれば,減っている県もある。

 赤字は20万円以上ダウンの県です。東京は,2010年の397.7万円から2015年の352.9万円へと,44.7万円も下がっています。経験年数の浅い若手が増えたことによるでしょうが,この減少幅は大きい。

 推定年収が大幅に減っている県は,経験年数の短い保育士が増えた県が多いようですが,岐阜のように,ベテラン保育士が増えても,年収が30万円近くダウンしている県もあります。反対に香川のように,経験年数が下がっても給与が上がっている県もあり(これは希望的事例です)。

 各県の保育士の年収変化は,保育士の経験年数の変化だけではなく,待遇改善に向けた政策にどれほど本腰を入れているかの違いもあるでしょうね。

 次に,各県の全労働者と比べた相対水準はどうか,という点をみてみましょう。下表は,全労働者と保育士の推定年収が,この5年間でどう変わったかを県別に整理したものです。


 アベノミクスの効果か知りませんが,どの県でも全労働者の年収はアップしています。首都の東京は,573.7万円から623.5万円へと,50万円近くの増です。その一方で,保育士の年収は先ほどみたように45万円も下がっている。

 その結果,保育士の年収の相対水準(保育士/全労働者)は,0.693から0.566へと下がっています。2010年では保育士の年収は全労働者の7割ほどでしたが,最近では5割強というところです。

 山陰の鳥取などはもっと事態がひどく,保育士年収の相対倍率は1.059から0.546に急落しています。5年前は保育士の年収は全労働者より高かったほどだが,今では半分ほどに落ちてしまっていると。

 3月19日の記事でみたように,各県の保育士の年収の相対水準は,保育士の離職率と相関しています。相対水準が低いほど,つまり周囲と比した剥奪感を感じる度合いが高い県ほど,保育士の離職率が高い傾向です。

 景気回復により,労働者の給与は上がっていますが,保育士はそうではない。社会的需要がきわめて増しているにもかかわらず,この現象は何ともおかしいことです。保育士の給与は公的な操作が容易なだけに,政治家が腰を上がれば即座のアップも難しくはないでしょう。

 そのためにはデータが要るのですが,ここで示した資料が説得の材料になれば幸いです。県別の傾向も示しましたので,地域レベルにおいて,保育士の状況点検の材料にしていただければとも思います。