2017年8月4日金曜日

都道府県別の大学進学率(2017年春)

 今年度の文科省『学校基本調査』の速報集計結果が公表されました。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001011528

 タイトルのごとく,学校数,児童生徒数,卒業後の進路など,学校に関する基本データを載せた,公的な基本統計資料です。教育学,とりわけ教育社会学の研究者で,この資料を知らない人はいないはずです。

 児童数が過去最低になった,大学生の就職率が過去最高になったなど,いろいろなファインディングが報じられていますが,私が関心を持つのは大学進学率です。

 2017年春の,18歳人口ベースの浪人込みの大学進学率は52.6%で,前年度の52.0%を上回りました。今では同世代の半分が4年制大学に進学しますが,そのことの数値的な表現です。

 しかるにこれは全国の数値で,地域別にみれば値は大きく違っています。地方出身という身の上もあり,私はこの問題にずっと関心を持ってきました。毎年,『学校基本調査』のデータが公表されたら,都道府県別の大学進学率を計算することにしています。2017年春の大学進学率の地域格差は,どうなっているでしょうか。

 大学進学率とは,進学該当年齢(18歳人口)のうち,4年制大学に進学した者が何%かです。『学校基本調査』から出す場合,当該年春の大学入学者数を,3年前の中学校・中等教育学校前期課程卒業者数で除して算出します。

 分子には,過年度卒業生(浪人経由者)も含まれますが,当該年の18歳人口からも浪人を経由して大学に入る者が同程度出るであろうと仮定し,両者が相殺するとみなします。

 2017年春の大学入学者は62万9736人で,3年前(2014年春)の中学校・中等教育学校前期課程卒業者は119万8290人ですので,今年春の大学進学率は上述の通り,52.6%となる次第です。

 都道府県別に出す場合は,分子は,当該県の高校出身の大学入学者数を充てることになります。

 以上が,18歳人口ベースの浪人込みの大学進学率の計算方法です。これは私が独断で考えたものではなく,公的に採用されている計算方法であることを申しておきます。

 このやり方で,2017年春の47都道府県の大学進学率を計算してみました。ジェンダーの違いも見たいので,男女別の数値も出しました。下表は,その一覧です。黄色マークは最高値,青色マークは最低値,赤字は上位5位です。


 左端の男女計の数値をみると,全国値は52.6%ですが,県別にみると東京の72.8%から大分の36.9%までの開きがあります。前者は後者のほぼ倍です。同じ国内とは思えぬほどの格差ですね。

 最下位の県は男女で違っていて,男子は沖縄,女子はわが郷里の鹿児島です。毎年のことですが,鹿児島はジェンダー差が大きくなっています。男子の進学率(42.7%)は,女子(32.5%)の1.3倍以上です。2015年に,本県の知事が「女子に三角関数を教えて何になる」と発言したことが思い出されます。

 表の右端には,このジェンダー倍率を掲げています。大学進学率の性差が最も大きいのは山梨,その次が鹿児島,3位は北海道です。

 しかし東京と徳島は,男子より女子の大学進学率が高くなっています。女子の場合,一人暮らしをさせるのを躊躇う親御さんが多いでしょうが,東京は,自宅から通える大学が多いという条件があるためでしょうか。徳島は,どういう事情でしょう。県内に大きな女子大があるというわけではなさそうですが…。

 毎年のことですが,大学進学率には凄まじい地域格差があります。都市部で高く,地方で低い。大学が都市部に偏在しているためですが,住民の階層構成とも強く相関しています。

 県民所得と強い相関関係にあるのは,大学進学には多額のコストがかかり,経済的理由で進学を断念する生徒が地方に多いことの表れです。しかるに,親の意識も大きいようで,親世代の大卒人口比率は,所得よりももっと大学進学率と強く相関しています。

 下図は,18歳人口の親世代(45~54歳)の大学・大学院卒比率と,上表の男女計の大学進学率の相関図です。


 スゴイですねえ。相関係数は+0.8698にもなります。費用負担のような経済要因よりも,親が大学進学をどう考えるかという意識や価値観,言うなれば文化資本的な要因が効いているようです。

 まあしかし,大学進学チャンスの地域格差の是正に際しては,経済的支援が大きな位置を占めるのは疑いようがありません。

 日本は大学進学率が50%を超えており,幅広い階層に高等教育機会が開かれた社会ですが,それは家計に大きな費用負担を強いていることで成り立っており,ここで見たような凄まじい地域格差を内包していることを,決して忘れてはいけません。

 教育基本法第4条が規定している「教育の機会均等」の理念が,全く持って実現されていない。そのための「奨学の措置」が,有利子の金貸し事業(名ばかり奨学金)というのは通用しません。*給付型の奨学金が導入される運びにはなりましたが。

 上記のような大学進学機会の地域格差は,個人にとっての「不平等」の問題にとどまりません。地方に埋もれた有能な才能を放置することになり,社会にとっても損失となります。子どもの学力上位の秋田や福井は,大学進学率が低いのです。学力テストの平均正答率と大学進学率の相関図を描くと,何とも奇妙な図柄になります。
http://tmaita77.blogspot.jp/2013/10/blog-post_20.html

 ヒトしか資源のない日本にとって,このような事態は看過できますまい。有能な人材を掘り出すための費用(給付奨学金,学費減免枠の拡大…)を,ケチっている場合ではないでしょう。