ネット書店の台頭により,街の本屋さんが苦境に立たされています。昨日の朝日新聞によると,全国の自治体の2割が,書店ゼロなのだそうです。
http://www.asahi.com/articles/ASK8R5FDVK8RUCLV00Q.html
書店の減少は,官庁統計からも知ることができます。総務省『経済センサス』の事業所統計(産業小分類)によると,書店・文房具小売事業所の数は,1991年では7万6915店でしたが,2014年では3万7817店まで半減しています。
http://www.stat.go.jp/data/e-census/2014/index.htm
書店へのアクセスがどれほど不便になったかを分かりやすくするため,上記の店舗数を面積で除して立地密度を出してみましょう。自転車で動き回れる範囲の生活圏に,書店・文具店がいくつあるか。
そうですねえ。5キロ四方の土地(25平方キロメートル)に,お店がいくつあるかを計算してみましょうか。総務省『日本統計年鑑』によると,全国の面積は37万7971㎢となっています。よって,25㎢あたりの店舗数は,以下のようになります。
1991年 … ( 7万6915店 / 37万7971㎢ )× 25 = 5.1店
2014年 … ( 3万7917店 / 37万7971㎢ )× 25 = 2.5店
私が中学生の頃は,自転車で動き回れる生活圏に5つの書店・文具店があったのですが,最近では2店に減ってしまっていると。
この立地密度を都道府県別に出すと,以下のようになります。各県の店舗数と立地密度(25㎢あたりの店舗数)の一覧表です。
どの県も店舗数は減っており,生活圏での店数も減少をみています。私が住んでいる神奈川県では,1991年では5キロ四方の土地に38店ありましたが,2014年では18店です。
横須賀市に限ったら,値はうんと低くなるだろうなあ。肌感覚として,この辺りに書店はないですもの。横須賀中央や久里浜に中規模の書店はありますが,品揃えがイマイチです。こういうわけで,毎週木曜は上京し,大きな書店をぶらつくことにしています。
しかし神奈川県はマシな部類で,地方では1~2店という県がザラです。5キロ四方の土地に,1~2しか書店・文具店がないと。2014年の北海道,岩手,秋田では1店もない計算です(アミ)。
北海道は広いですからねえ。北海道の面積は8万3424㎢で,2014年の店舗数は1661店ですから,前者を後者で除して,50.2平方キロメートルの土地に1つの書店・文具店があることになります。平方根をとって,7.1キロメートル四方の土地に1つの店舗があると。
7.1キロを,子どもが自転車でこぐのはキツイ。子どもの生活圏に,書店が1つもないことの数値的な表現です。
この数値は,書店へのアクセシビリティの指標になるでしょう。値が低い順,つまりアクセスがよい順に47都道府県を並べると,以下の表のようになります。
都市部ほどアクセスがいいのは当然。東京では,700メートル四方の土地に1店あります。東京では700メートル走れば書店にいけますが,北海道ではその10倍の7キロを自転車こがないといけない。
ラフな試算ですが,知の泉へのアクセス可能性には,スゴイ地域差があることにも注意しないといけませんね。それを埋める策として,公共図書館の整備が大きな位置を占めます。
『経済センサス』によると,書店・文具店は減っていますが,図書館の数は増えています。1991年では2273だったのが,2014年では3311になっています。およそ1.5倍の増です。住民の知のセンターとしての,図書館の役割の重要性が認識されているのでしょう。
ただ数の上では,商業書店のほうがはるかに多いので,知の源泉に直に触れる機会が著しく減じていることには変わりありません。
リアルの書店は,思わぬ本との出会いを提供してくれる場です。目的の本を前もって決めて購入するネット書店では,決して味わえないこと。この貴重な空間を一種の「公共財」とみなし,保護する策も必要でしょう。フランスでは,街の書店を保護するために,送料無料でのネット販売を禁じる「反アマゾン法」が施行されていると聞きます。
北海道では,買い物難民を救済すべく,各地で採算度外視の公設スーパーが建てられているそうです。こういう視点が,知の源泉であるリアル書店の再起に適用されてもいいでしょう。
国を挙げて,子どもの読書活動推進の取組がなされていますが,口先での啓発活動に仕向ける予算を,リアル書店の再起に充ててもよいでしょう。子どもが本を読もうという気になるのは,大人から「本を読め」と言われることによってではなく,本屋さんで「これは!」という本に偶然出会うことによってです。