差別(discrimination)は,いつの時代,どの社会でも,重要な社会問題の根幹をなしています。性・年齢・人種など,当人では如何ともしがたい外的属性によって,社会的な処遇や富の配分に傾斜をつけることです。
差別は,生活のあらゆる領域で起こり得ますが,最も頻度が高いのは,仕事の場(職域)ではないでしょうか。昔の社会病理学のテキストを開くと,「職域の病理」というチャプターの中で,必ずといっていいほど,差別の問題に触れられています。
ISSPの「職場環境に関する調査」(2015年)では,就業者(就業経験者)に対し,過去5年間で,仕事上の差別を受けたことがあるか,と問うています。回答は,「イエス」or「ノー」。
http://www.issp.org/data-download/by-year/
日本の労働者の回答は,「はい」が133人,「いいえ」が1011人となっています(無効回答は除く)。被差別の経験率は,133/(133+1011)=11.6% となります。仕事に関わる差別を受けたことがある労働者の割合は,全体のおよそ1割。
「はい」と答えた者には,差別の主な理由を答えてもらっています。11の選択肢から1つを選ぶ形式です。それを整理すると,下表のようになります。
被差別経験者133人の回答によると,主な差別理由として「年齢」を選んだ者が49人と,最も多くなっています。わが国の(悪しき)年齢主義が出ていますねえ。その次は,「その他」の45人です。分かりやすい外的属性以外の差別もあるのでしょう。
3番目は障害。日本の職場はまだまだ,障害者にとって働きやすいとはいえますまい。その次は性別です。サンプルが少ないので分析できませんが,女性に限ったらこの理由の比重は高くなるでしょう。
上の表は,日本の職場における差別理由ですが,様相は国によって違っています。多民族国家のインドでは,差別理由で最も多いのは「人種」です。南米のベネズエラでは,「政治的信念」が最も多くなっています。
しかし大観すると,年齢・性別という,人間を分かつ基本属性に由来する差別が多くなっています。
この2つの理由が,差別理由全体の中で何%を占めるか。調査対象の37か国の国際比較をしてみましょうか。
「どれでもない」と「無回答」を除く9つの理由全体に占める,年齢・性別の比重を計算してみました。日本の場合,年齢は,49/124=39.5%です。性別は,8/124=6.5%なり(上記の表参照)。
横軸に年齢,縦軸に性別の比重をとった座標上に,37の国を配置すると,以下の図のようになります。点線は,37か国の平均値を表します。
横軸の年齢差別の比重は,日本はオーストラリアに次いで高くなっています。性差別は,国際平均より下。近くに,メキシコやフィリピンといった発展途上国がありますが,女性差別にセンシティヴでない,という見方もできます。
南アフリカやスリナムでは,両方の比重が低くなっていますが,これらの社会では,「人種」という理由を選ぶ人が圧倒的に多くなっています。南アの人種隔離政策(アパルトヘイト)の歴史は,よく知られていること。その伝統が,見えざる形で残存しているのでしょう。
右上は,年齢や性差別の申告度が高い社会ですが,フィンランドはセンシティヴですねえ。アイスランド,ノルウェー,そしてスウェーデン(瑞)といった北欧諸国では,性差別の比重が高し。女性の就業率が高いので,こういう結果になるのでしょうが,ジェンダーの問題に真摯に向き合っていることの表れともとれます。
性差別にどれほどセンシティヴか? この点を計測する尺度とか,どこかの研究者が考案していないものか。いくつかの行為を提示し,「差別と思うか」と答えさせ,点数化するなど。おそらく,左上と右下の社会では,かなり違った結果が出るでしょう。
ただ日本でも年齢差別の問題は認識されているようです,現実にもありますしね。年齢え求職者を門前払いしたり,若いという理由で,才能ある人材を指導的なポジションに就かせなかったり…。校長の若年比率の国際比較をすると,よく分かります。
16日公開のニューズウィーク記事にも書きましたが,こういう悪しき年齢主義を打破するには,履歴書の年齢欄を撤廃することから始めるといいかもしれません。年齢を記した履歴書を求めること,求人票に「*歳まで」と書くことなどは,諸外国では年齢差別以外の何物でもありません。
20代のフリーターの7割が月収20万未満で,8割が正社員を希望しているというデータが報じられています。超売り手市場で,学生がこないと企業は嘆いていますが,新卒だけでなく,こういう既卒層,さらにはわれわれのようなロスジェネにも目を向けるべきでしょう。同じ人間,何も違うところはありません。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171120-00000065-zdn_mkt-bus_all
少子高齢化で労働力が減っていく時代にあって,年齢主義や新卒至上主義のような慣行は,まずもって撤廃しないといけません。