前回は,1941年(昭和16年)秋の大都市における,子どもの1日の暮らしぶりを観察しました。今回は,村落に目を転じてみましょう。
都市化が進んだ現在では,人口の大半は都市に住んでいますが,昔は違いました。1940年の『国勢調査報告』によると,人口の6割は町村の居住者で,そのうちの半分は人口が5千人に満たない町村の居住者です。よって,当時の子どもの生活の実相を知るには,村落(農村)に目を向けることが不可欠です。
総務省統計局の図書館で,『国民生活時間調査・季節調査報告秋季・国民学校児童編』(日本放送協会,1942年10月刊行)という資料をみつけました。この資料から,1941年11月のある1日(平日)における,時間帯別の子どもの生活行動分布を知ることができます。ここでいう子どもとは,国民学校初等科5年生の児童です。年齢でいうと,ほぼ10歳。
前回は大都市のデータをみました。今回は,村落のそれをみてみます。サンプル数は,男子が439人,女子が445人なり。大都市よりも若干多くなっています。下図は,10分刻みの時間帯別に生活行動の分布を図示したものです。男女で分けています。
村落の子どもの場合,都市部にもまして,起床の時間が早くなっています。朝の5:30にして6割,6:00では8割の者が起きています。今の子どもだったら考えられないことですね。
朝の時間帯に,お手伝い(用事)をする者や遊ぶ者が少なくないのは都市部と同じですが,村落の特徴は,通学のシェアが大きいことです。7時台のほとんどは通学に費やされています。村落の場合,遠距離通学がさぞ多かったことと思われます。歩いて1時間なんてのはザラでしょう。
放課後の14~15時台も,通学に多くが喰われています。帰宅した後は,多くの子どもがお手伝い。17:00~17:10の時間帯でみると,男子の40%,女子の45%がお手伝い(用事)をこなしています。この比率は,前回みた大都市よりもはるかに高くなっています。参考までに,この時間帯の行動分布を大都市と村落で比べた表を掲げておきましょう。
村落の子どものお手伝い実施率の高さには驚かされます。夕食の支度・お使いに加えて,家畜の世話,農作物の管理・収穫,子守のような仕事も子どもに割り振られたことでしょう。農作業にしても機械化が進んでおらず,多くが手作業であったため,子どもも貴重な労働力であったわけです。
村落ではその分,勉強や遊びのウェイトが小さくなっています。上図をよくみると,学校に登校してから授業が始まるまでの間に勉強する者が2割ほどいます。夜は宿題をやる暇がないので,朝方に急いで仕上げるのでしょうか。
最後に就寝時間です。朝が早いためか,布団に入る時間は都市部よりも早くなっています。夜の8:00で約半分,9:00になると9割の者が床に就いています。今だったら,ほとんどの子が塾で授業を受けたり,自室でくつろいだりしている時間です。
1941年といったら,今から70年前ですが,子どもの生活はまったく違っていたのですね。とくに村落では,「早寝早起き・お手伝い」が都市部よりももっと徹底されていたようです。徒歩1時間の通学はザラ,その上,家での各種のお手伝いで体を動かしていたのですから,当時の村落の子どもは体力があったのではないかなあ。
当時の子どもの生活を無条件に賛美するつもりはありません。「百姓の子が勉強などするでない。手伝いをせい!」などと親から言われ,勉強したくてもできない子が数多くいたというなら,それは不幸なことです。
しかるに,昔の子どもの生活は,文字通り,「生」きるための「活」動という意味合いを色濃く持っていたことは,注目されるべきでしょう。今の子どもたちは,こうした原義的な意味での「生活」から完全に乖離しています。彼らの1日の多くは,学校での机上の勉強,マスメディア視聴,ネットゲームなどで占められています。モノの生産者ではなく,モノの消費者です。このことに伴う諸問題については,ここで申すまでもありますまい。
時代が変わったといわれればそれまでですが,現代の子どもたちをして,「生活」に意図的に接近させる実践も必要であると思われます。小学校低学年における生活科の創設,近年のキャリア教育の進展などは,それに沿うものでしょう。昨年に起きた東日本大震災も,子どもたちに基本的な「生」を見つめさせる機会となっています。
このようなことを述べるのは,今の子どもたちの暮らしぶりをデータで明らかにした後にすべきかもしれません。最新の『国民生活時間調査』の統計を使って,現在の小学生の1日を俯瞰できる統計図をつくり,昔と比較する作業を手がけてみようと思います。
2012年6月9日土曜日
2012年6月8日金曜日
昭和初期の子どもの1日(大都市)
総務省統計局の統計図書館をご存知でしょうか。ここには,これまでに刊行された,ありとあらゆる官庁統計が所蔵されています。私にとって「聖地」といえるところです。新宿駅西口から都バスで約15分,国立国際医療センター前下車,すぐ目の前なり。
http://www.stat.go.jp/training/toshokan/4.htm
今週の水曜(6日),久々に行ってきました。目的を終えて館内を何気なくブラブラしていたら,奥のほうの書棚で,『国民生活時間調査・季節調査報告秋季・国民学校児童編』(日本放送協会,1942年10月刊行)という資料に出会いました。
くくってみると,1941年(昭和16年)の秋における,国民学校初等科5年生児童の1日の生活行動を仔細に調べた統計表が載っているではありませんか。「これは使える」と思い,必要箇所をコピー。
いやー,この図書館は「宝の山」です。ちょっとブラつくだけで,ブログのネタにできそうな資料に遭遇することがしばしばあります。私は東京を離れたくないのですが,その理由の一つ,いや最大の理由は,この図書館に通えなくなるのが辛いからなのです・・・。
『国民生活時間調査』は,日本放送協会が5年おきに実施している調査です。上記の1941年調査は,おそらく最古のものではないかしらん。今回はこの資料をもとに,当時の子どもの1日を再現してみようと思います。
http://www.nhk.or.jp/bunken/yoron/lifetime/index.html
明らかにするのは,1941年11月のある1日(平日)における,時間帯別の子どもの生活行動分布です。ここでいう子どもとは,国民学校初等科5年生の児童なり。国民学校とは,今でいう小学校です。初等科5年生は,年齢でいうとほぼ10歳に相当します。
1941年(昭和16年)11月といえば,太平洋戦争が勃発する直前の時期です。戦前期(昭和初期)の子どもの1日の暮らしぶりはどういうものだったのでしょう。なお,原資料では,大都市と村落に分けてデータが集計されています。今回は,大都市の子どもの暮らしをみてみます。サンプルは,男子が352人,女子が359人なり。
下図は,調査対象日の各時間帯(10分刻み)における行動分布を図示したものです。男女に分けています。
平日ですので,日中は全ての子どもが学校で授業を受けています。これは今でも同じですが,当時の特徴は,登校前と下校後の過ごし方に見出されます。
まず起床の状況をみると,朝の6:00にして,およそ4割の者が起きています。7:00になると,男子の1割,女子の2割ほどが「用事≒お手伝い」。早起きして,朝食の支度などを手伝う者も少なくなかったようです。
なお,朝から遊んでいる子どもが多いことも注目されます。8:00では,4割の者が「遊ビ」です。今の子どもなら,することがない場合,ギリギリまで寝ているのが普通でしょう。当時は,やることの有無に関係なく,子どもは早くに叩き起こされていたことがうかがわれます。「お日様がのぼっているのに布団にくるまっているとは何事か!」という感じでしょうか。
次に下校後ですが,10歳の子どもですから,当然「遊ビ」のシェアが大きくなっています。その次は勉強です。その中には,宿題や予習・復習のほか,各種の習い事も含まれるとのこと。夕方の4~5時あたりになると,用事(お手伝い)をする者も多し。女子では,3割近くがお手伝いをしています。夕食の支度や買い物でしょう。家電品がなかった当時は,子どもがこうした手伝いに駆り出される条件がありました。
夕食後は,勉強や身の廻リ雑事(風呂)に加えて,「教養」というカテゴリーも多くなります(とくに男子)。教養とは,「新聞,雑誌,書物を読むこと,ラジオを聴くこと,音楽や舞踊のおけいこに行くこと」等とされています。現在の行動カテゴリーでいうと,メディア接触のようなものですね。
そして就寝ですが,これがまた早い。夜の9時にして8割,10時になるとほぼ全員が床に就いています。今の小学校5年生だったら,塾で授業を受けている者もいる時間帯です。ちなみに,2010年の『国民生活時間調査』によると,平日の夜の10時で寝ている小学生(5,6年生)の比率は6割ほどです。
いかがでしょう。「早寝早起き・お手伝い」というような,昔の子どもの生活の特徴が検出されたことと思います。今回みたのは,昭和初期の大都市の子どもの1日ですが,言うまでもなく当時は,村落の居住人口が圧倒的に多かった頃です。
都市と村落(農村)では,各種の生活条件が大きく違っていました。故に,子どもの生活にも大きな差異があったことと思われます。次回は,当時の村落における子どもの1日をのぞいてみようと思います。
http://www.stat.go.jp/training/toshokan/4.htm
今週の水曜(6日),久々に行ってきました。目的を終えて館内を何気なくブラブラしていたら,奥のほうの書棚で,『国民生活時間調査・季節調査報告秋季・国民学校児童編』(日本放送協会,1942年10月刊行)という資料に出会いました。
くくってみると,1941年(昭和16年)の秋における,国民学校初等科5年生児童の1日の生活行動を仔細に調べた統計表が載っているではありませんか。「これは使える」と思い,必要箇所をコピー。
いやー,この図書館は「宝の山」です。ちょっとブラつくだけで,ブログのネタにできそうな資料に遭遇することがしばしばあります。私は東京を離れたくないのですが,その理由の一つ,いや最大の理由は,この図書館に通えなくなるのが辛いからなのです・・・。
『国民生活時間調査』は,日本放送協会が5年おきに実施している調査です。上記の1941年調査は,おそらく最古のものではないかしらん。今回はこの資料をもとに,当時の子どもの1日を再現してみようと思います。
http://www.nhk.or.jp/bunken/yoron/lifetime/index.html
明らかにするのは,1941年11月のある1日(平日)における,時間帯別の子どもの生活行動分布です。ここでいう子どもとは,国民学校初等科5年生の児童なり。国民学校とは,今でいう小学校です。初等科5年生は,年齢でいうとほぼ10歳に相当します。
1941年(昭和16年)11月といえば,太平洋戦争が勃発する直前の時期です。戦前期(昭和初期)の子どもの1日の暮らしぶりはどういうものだったのでしょう。なお,原資料では,大都市と村落に分けてデータが集計されています。今回は,大都市の子どもの暮らしをみてみます。サンプルは,男子が352人,女子が359人なり。
下図は,調査対象日の各時間帯(10分刻み)における行動分布を図示したものです。男女に分けています。
平日ですので,日中は全ての子どもが学校で授業を受けています。これは今でも同じですが,当時の特徴は,登校前と下校後の過ごし方に見出されます。
まず起床の状況をみると,朝の6:00にして,およそ4割の者が起きています。7:00になると,男子の1割,女子の2割ほどが「用事≒お手伝い」。早起きして,朝食の支度などを手伝う者も少なくなかったようです。
なお,朝から遊んでいる子どもが多いことも注目されます。8:00では,4割の者が「遊ビ」です。今の子どもなら,することがない場合,ギリギリまで寝ているのが普通でしょう。当時は,やることの有無に関係なく,子どもは早くに叩き起こされていたことがうかがわれます。「お日様がのぼっているのに布団にくるまっているとは何事か!」という感じでしょうか。
次に下校後ですが,10歳の子どもですから,当然「遊ビ」のシェアが大きくなっています。その次は勉強です。その中には,宿題や予習・復習のほか,各種の習い事も含まれるとのこと。夕方の4~5時あたりになると,用事(お手伝い)をする者も多し。女子では,3割近くがお手伝いをしています。夕食の支度や買い物でしょう。家電品がなかった当時は,子どもがこうした手伝いに駆り出される条件がありました。
夕食後は,勉強や身の廻リ雑事(風呂)に加えて,「教養」というカテゴリーも多くなります(とくに男子)。教養とは,「新聞,雑誌,書物を読むこと,ラジオを聴くこと,音楽や舞踊のおけいこに行くこと」等とされています。現在の行動カテゴリーでいうと,メディア接触のようなものですね。
そして就寝ですが,これがまた早い。夜の9時にして8割,10時になるとほぼ全員が床に就いています。今の小学校5年生だったら,塾で授業を受けている者もいる時間帯です。ちなみに,2010年の『国民生活時間調査』によると,平日の夜の10時で寝ている小学生(5,6年生)の比率は6割ほどです。
いかがでしょう。「早寝早起き・お手伝い」というような,昔の子どもの生活の特徴が検出されたことと思います。今回みたのは,昭和初期の大都市の子どもの1日ですが,言うまでもなく当時は,村落の居住人口が圧倒的に多かった頃です。
都市と村落(農村)では,各種の生活条件が大きく違っていました。故に,子どもの生活にも大きな差異があったことと思われます。次回は,当時の村落における子どもの1日をのぞいてみようと思います。
2012年6月7日木曜日
国別の幸福度カルテ③
前回と前々回の記事で,24か国の幸福度カルテをお見せしました。今回は,残りの12か国についてみてみましょう。幸福度カルテとは,OECDの幸福度指数(BLI)をもとに作成したものです。収入,住居,ワーク・ライフ・バランスなど,多角的な視点から,それぞれの国の幸福度を視覚的に捉えることができます。
http://www.oecdbetterlifeindex.org/
11の項目の幸福度が,0.0から1.0までのスコアで計測されています。値が高いほど,幸福度が高いことを意味します。元データからの加工のプロセスは,前々回の記事を参照願います。わが国を例にして,詳しく説明しています。
それではまず,前半の6か国の図をみていただきましょう。ロシア,ポーランドなど,旧社会主義の国が多く含まれています。国名の右の数値は,11項目の幸福度を測る全指標のスコアの平均値です。あらゆる側面を合成した,総合的な幸福度尺度とお考えください。この値が0.7を超える国は,図形の色をピンクにしました。トータルな幸福度が高い国と判断されます。
北欧のノルウェーは,多くの項目の幸福度が高い円満な型になっています。トータルな幸福度スコアは0.789であり,全対象国(36か国)の中で最高です。すごいですね。
大国のロシアは,アンバランスな図形ができています。住居やWLバランス面はまあまあですが,健康と生活満足の項が極端に凹んでいるのです。厳しい気候条件の故でしょうか。ちなみにロシアでは,青年層の自殺率が非常に高くなっています。(昨年の10月12日の記事)。
続いて,後半の6か国です。米英のほか,福祉国家スウェーデン,中東のトルコなどが顔を見せています。
異彩を放っているのがトルコです。 図形の面積が小さくなっています。全指標のスコア平均は0.296で,36か国中最低です。連帯(ソーシャルネットワーク)のスコアは0.0なり。この項目は,「いざとなった時,頼れる人がいるか」という設問に対する回答で測られますが,トルコは,「いる」という者の比率が69%であり,OECD平均(91%)を大きく下回っています。
スウェーデンは,お隣のノルウェーと同様,バランスのとれた型になっています。アメリカは,収入項目のスコアが1.00,全対象国の中でトップです。さすがは経済大国。しかし,この国では,内部格差が大きいことに注意しなければなりませんが。
以上,36か国の幸福度カルテをご覧いただきました。メディアでは,一元化した総合尺度をもとに,各国の順位がどうということに関心が払われているようですが,そのように一元化する前のロー・データに当たってみると,各国の多様な側面(型)がみえてきます。
どこが突出していて,どこが凹んでいるのか・・・。私が調べた限り,この種の情報を伝えている報道はないようでしたので,この場において,視覚的な統計図の形でそれを提示した次第です。みなさまの興味・関心に沿うところがあるならば,幸いに存じます。
http://www.oecdbetterlifeindex.org/
11の項目の幸福度が,0.0から1.0までのスコアで計測されています。値が高いほど,幸福度が高いことを意味します。元データからの加工のプロセスは,前々回の記事を参照願います。わが国を例にして,詳しく説明しています。
それではまず,前半の6か国の図をみていただきましょう。ロシア,ポーランドなど,旧社会主義の国が多く含まれています。国名の右の数値は,11項目の幸福度を測る全指標のスコアの平均値です。あらゆる側面を合成した,総合的な幸福度尺度とお考えください。この値が0.7を超える国は,図形の色をピンクにしました。トータルな幸福度が高い国と判断されます。
北欧のノルウェーは,多くの項目の幸福度が高い円満な型になっています。トータルな幸福度スコアは0.789であり,全対象国(36か国)の中で最高です。すごいですね。
大国のロシアは,アンバランスな図形ができています。住居やWLバランス面はまあまあですが,健康と生活満足の項が極端に凹んでいるのです。厳しい気候条件の故でしょうか。ちなみにロシアでは,青年層の自殺率が非常に高くなっています。(昨年の10月12日の記事)。
続いて,後半の6か国です。米英のほか,福祉国家スウェーデン,中東のトルコなどが顔を見せています。
異彩を放っているのがトルコです。 図形の面積が小さくなっています。全指標のスコア平均は0.296で,36か国中最低です。連帯(ソーシャルネットワーク)のスコアは0.0なり。この項目は,「いざとなった時,頼れる人がいるか」という設問に対する回答で測られますが,トルコは,「いる」という者の比率が69%であり,OECD平均(91%)を大きく下回っています。
スウェーデンは,お隣のノルウェーと同様,バランスのとれた型になっています。アメリカは,収入項目のスコアが1.00,全対象国の中でトップです。さすがは経済大国。しかし,この国では,内部格差が大きいことに注意しなければなりませんが。
以上,36か国の幸福度カルテをご覧いただきました。メディアでは,一元化した総合尺度をもとに,各国の順位がどうということに関心が払われているようですが,そのように一元化する前のロー・データに当たってみると,各国の多様な側面(型)がみえてきます。
どこが突出していて,どこが凹んでいるのか・・・。私が調べた限り,この種の情報を伝えている報道はないようでしたので,この場において,視覚的な統計図の形でそれを提示した次第です。みなさまの興味・関心に沿うところがあるならば,幸いに存じます。
2012年6月5日火曜日
国別の幸福度カルテ②
前回の続きです。今回は,OECDのBLI対象国のうち,アルファベット配列の12~24番目の国の幸福度カルテをご覧にいれます。
ここでいう幸福度カルテとは,収入,住居など,11の項目をもとに,各国の幸福度を多角的に診断するものです。下記サイトの原資料のデータを加工して作成しました。そのプロセスについては,お手数ですが前回の記事を参照してください。
http://www.oecdbetterlifeindex.org/
ではまず,ギリシャからイタリアまでの6か国のカルテをみていただきましょう。それぞれの項目の幸福度が,0.0~1.0までのスコアで測られています。値が大きいほど,幸福度が高いことを意味します。よって,図形の面積が大きいほど,総体的な幸福度が高いことになります。
国名の右の数値は,各項目の幸福度を測る24指標のスコアの平均値です。この数値は,あらゆる側面を合成した総合的な幸福度尺度とお考えください。この数値が0.7を超える場合,図形の色をピンクにしています。
ギリシャとハンガリーは,図形の面積が小さくなっています。この2国は,国民の主観的な生活満足度が低いようです。ハンガリーは,健康面の凹みも目立ちます。最近低下していますが,この国は自殺率が高いことで有名です。
北のアイスランドとアイルランドは,比較的円満な型をなしています。中東のイスラエルは,社会参画の凹みが顕著です。この項目は,国民がどれほど社会の形成に参画しているかを測るもので,投票率や協議による政策決定頻度から構成されます。中東では独裁国家が多いといいますが,そのことの表れでしょうか。
次に,日本からニュージーランドまでのカルテです。日本の図は前回もみましたが,再掲します。図形の形を他国と比べてください。
この中で異彩を放っているのがメキシコです。収入,教育,および安全の面での幸福度は全対象国の中の最低レベル。その一方で,国民の健康度や生活満足度はわが国や韓国に匹敵します。客観的な側面と主観的な側面の落差が激しい,特徴的な型です。前回みたブラジルもそうでした。途上国型と括られるタイプです。
さて,日本の特徴(欠点)はといえば,やはりワーク・ライフ・バランスの項の凹みでしょう。この項目を測る元の指標は,長時間労働率と余暇時間です(前回の記事参照)。最近改善されてきているとはいえ,日本はまだまだ,国民の生活構造の歪みが顕著な社会です。このことは,客観的な生活水準に釣り合わない,人々の健康不良や生活不満につながっていると思われます。
このことは当局も認識していることであり,各種の施策が実施されています。官民一体となった取組の進展が,強く望まれるところです。
ここでいう幸福度カルテとは,収入,住居など,11の項目をもとに,各国の幸福度を多角的に診断するものです。下記サイトの原資料のデータを加工して作成しました。そのプロセスについては,お手数ですが前回の記事を参照してください。
http://www.oecdbetterlifeindex.org/
ではまず,ギリシャからイタリアまでの6か国のカルテをみていただきましょう。それぞれの項目の幸福度が,0.0~1.0までのスコアで測られています。値が大きいほど,幸福度が高いことを意味します。よって,図形の面積が大きいほど,総体的な幸福度が高いことになります。
国名の右の数値は,各項目の幸福度を測る24指標のスコアの平均値です。この数値は,あらゆる側面を合成した総合的な幸福度尺度とお考えください。この数値が0.7を超える場合,図形の色をピンクにしています。
ギリシャとハンガリーは,図形の面積が小さくなっています。この2国は,国民の主観的な生活満足度が低いようです。ハンガリーは,健康面の凹みも目立ちます。最近低下していますが,この国は自殺率が高いことで有名です。
北のアイスランドとアイルランドは,比較的円満な型をなしています。中東のイスラエルは,社会参画の凹みが顕著です。この項目は,国民がどれほど社会の形成に参画しているかを測るもので,投票率や協議による政策決定頻度から構成されます。中東では独裁国家が多いといいますが,そのことの表れでしょうか。
次に,日本からニュージーランドまでのカルテです。日本の図は前回もみましたが,再掲します。図形の形を他国と比べてください。
この中で異彩を放っているのがメキシコです。収入,教育,および安全の面での幸福度は全対象国の中の最低レベル。その一方で,国民の健康度や生活満足度はわが国や韓国に匹敵します。客観的な側面と主観的な側面の落差が激しい,特徴的な型です。前回みたブラジルもそうでした。途上国型と括られるタイプです。
さて,日本の特徴(欠点)はといえば,やはりワーク・ライフ・バランスの項の凹みでしょう。この項目を測る元の指標は,長時間労働率と余暇時間です(前回の記事参照)。最近改善されてきているとはいえ,日本はまだまだ,国民の生活構造の歪みが顕著な社会です。このことは,客観的な生活水準に釣り合わない,人々の健康不良や生活不満につながっていると思われます。
このことは当局も認識していることであり,各種の施策が実施されています。官民一体となった取組の進展が,強く望まれるところです。
2012年6月4日月曜日
国別の幸福度カルテ①
各国の幸福度を測る指標として,OECDの"Better Life Index"があります。5月25日から28日の記事では,最新のBLIを使って,日本を含む10か国の幸福度カルテをつくってみました。
http://www.oecdbetterlifeindex.org/
しかるに,BLIの対象国は全部で36か国です。残りの国のカルテはどうか,という関心もあろうかと思います。今回から3回かけて,全対象国の幸福度カルテを出してみようと存じます。幸福度カルテとは,収入,住居,ワーク・ライフ・バランスなど,多様な側面から各国の幸福度を捉えることのできるレーダーチャート図です。
いきなり図を出しても??でしょうから,製作工程をご説明します。OECDのBLIでは,11の項目を設け,それぞれの面の幸福度を測る統計指標を取り上げています。合計24指標。たとえば収入(Income)の項目は,世帯収入と世帯金融資産の2指標で測るとされています。下表は,日本の各指標の値を整理したものです。
収入の指標は,世帯の平均年収が23,458ドル,平均金融資産が71,717ドルです。教育の指標は,生産年齢人口の高卒以上比率が92%,平均在学年数が18.2年,PISA平均点が529点なり。ほか,云々・・・。
この原資料を加工して,11の項目ごとの幸福度が分かる統計をつくります。やり方としては,各項目の指標を合成することになります。収入なら2指標,仕事なら4指標の数値を合成するわけです。
ですが,水準や単位を異にする指標を合成することはできません。そこで,それぞれの指標の値を,0.0~1.0までの範囲の標準スコアに換算します。OECDの資料(上記サイト)では,次のような計算式が提示されています。
(当該国の指標値-全対象国の最小値)/(全対象国の最大値-全対象国の最小値)
たとえばPISA平均点でいうと,36か国中の最大値はフィンランドの543点,最小値はブラジルの401点です。よって,日本のスコアは,(529-401)/(543-401)=0.901となります。フィンランドは1.00,ブラジルは0.00となります。このスコアは,全対象国の中における当該国の位置を示す相対的なものといえます。
なお,▼印のついたネガティヴ指標は,上記式で出した値を1.00から差し引く処置をします。ひっくり返すわけです。こうすることで,ネガティヴ指標についても,スコア値が高いほど好ましいという意味合いを持たせることができます。
日本の24指標の実値をスコア化したものが,上表の右欄の数値です。このスコアは,値が高いほど(1.0に近いほど)好ましいことを意味します。収入の面の幸福度は,世帯収入と金融資産のスコアを平均した値(0.608)とします。仕事は4指標のスコア平均,住居は3指標のスコア平均,・・・以下同じです。
さあ,これでカルテの元データができました。項目ごとのスコア平均値をレーダーチャート図にしたのが,幸福度カルテなのです。日本の場合,以下のような図形になります。5月25日の記事でも出した図ですが,再掲します。
わが国の場合,教育や安全面の幸福度が高いことが特徴です。一方,WLバランスや生活満足の面は凹んでいます。この部分を是正し,もっと円満な型にしたいものです。
それでは,36か国のうち,12か国のカルテをみていただきましょう。アルファベット順の国名配列の最初の12か国です。国名の隣の数値は,24指標のスコアの平均値です。各国の総合的な幸福度の尺度とお考えください。この値が0.7を超える場合は,図形の色をピンク色にしています。
まずは前半の6か国。南米の2国と他の4国の差が際立っています。ブラジルとチリは,収入が極端に凹んでいます。ブラジルは安全面も。総合的な幸福度も0.4台と低いのですが,その割には,人々の主観的な生活満足度が高いのが注目されます。他の4国は,おおむね円満な型です。
次に,後半の6か国を。仏独と東欧・北欧の国です。
チェコとエストニアは,図形の面積がやや小さくなっています。社会主義の伝統が濃い国ですが,投票率や協議による政策決定のような,社会参画の面の凹みが目立ちます。革命の国フランスも然り。ドイツも。ちょっと不思議な感じがします。
北欧の2国は,収入面を別にすれば円満型です。デンマークは生活満足度が1.00でマックス,36か国中最高です。WLバランスもバッチリ。わが国も見習いたいものですね。
次回は,これに続く12か国のカルテを展示します。中東のイスラエル,中米のメキシコなど。ではでは。
http://www.oecdbetterlifeindex.org/
しかるに,BLIの対象国は全部で36か国です。残りの国のカルテはどうか,という関心もあろうかと思います。今回から3回かけて,全対象国の幸福度カルテを出してみようと存じます。幸福度カルテとは,収入,住居,ワーク・ライフ・バランスなど,多様な側面から各国の幸福度を捉えることのできるレーダーチャート図です。
いきなり図を出しても??でしょうから,製作工程をご説明します。OECDのBLIでは,11の項目を設け,それぞれの面の幸福度を測る統計指標を取り上げています。合計24指標。たとえば収入(Income)の項目は,世帯収入と世帯金融資産の2指標で測るとされています。下表は,日本の各指標の値を整理したものです。
収入の指標は,世帯の平均年収が23,458ドル,平均金融資産が71,717ドルです。教育の指標は,生産年齢人口の高卒以上比率が92%,平均在学年数が18.2年,PISA平均点が529点なり。ほか,云々・・・。
この原資料を加工して,11の項目ごとの幸福度が分かる統計をつくります。やり方としては,各項目の指標を合成することになります。収入なら2指標,仕事なら4指標の数値を合成するわけです。
ですが,水準や単位を異にする指標を合成することはできません。そこで,それぞれの指標の値を,0.0~1.0までの範囲の標準スコアに換算します。OECDの資料(上記サイト)では,次のような計算式が提示されています。
(当該国の指標値-全対象国の最小値)/(全対象国の最大値-全対象国の最小値)
たとえばPISA平均点でいうと,36か国中の最大値はフィンランドの543点,最小値はブラジルの401点です。よって,日本のスコアは,(529-401)/(543-401)=0.901となります。フィンランドは1.00,ブラジルは0.00となります。このスコアは,全対象国の中における当該国の位置を示す相対的なものといえます。
なお,▼印のついたネガティヴ指標は,上記式で出した値を1.00から差し引く処置をします。ひっくり返すわけです。こうすることで,ネガティヴ指標についても,スコア値が高いほど好ましいという意味合いを持たせることができます。
日本の24指標の実値をスコア化したものが,上表の右欄の数値です。このスコアは,値が高いほど(1.0に近いほど)好ましいことを意味します。収入の面の幸福度は,世帯収入と金融資産のスコアを平均した値(0.608)とします。仕事は4指標のスコア平均,住居は3指標のスコア平均,・・・以下同じです。
さあ,これでカルテの元データができました。項目ごとのスコア平均値をレーダーチャート図にしたのが,幸福度カルテなのです。日本の場合,以下のような図形になります。5月25日の記事でも出した図ですが,再掲します。
わが国の場合,教育や安全面の幸福度が高いことが特徴です。一方,WLバランスや生活満足の面は凹んでいます。この部分を是正し,もっと円満な型にしたいものです。
それでは,36か国のうち,12か国のカルテをみていただきましょう。アルファベット順の国名配列の最初の12か国です。国名の隣の数値は,24指標のスコアの平均値です。各国の総合的な幸福度の尺度とお考えください。この値が0.7を超える場合は,図形の色をピンク色にしています。
まずは前半の6か国。南米の2国と他の4国の差が際立っています。ブラジルとチリは,収入が極端に凹んでいます。ブラジルは安全面も。総合的な幸福度も0.4台と低いのですが,その割には,人々の主観的な生活満足度が高いのが注目されます。他の4国は,おおむね円満な型です。
次に,後半の6か国を。仏独と東欧・北欧の国です。
チェコとエストニアは,図形の面積がやや小さくなっています。社会主義の伝統が濃い国ですが,投票率や協議による政策決定のような,社会参画の面の凹みが目立ちます。革命の国フランスも然り。ドイツも。ちょっと不思議な感じがします。
北欧の2国は,収入面を別にすれば円満型です。デンマークは生活満足度が1.00でマックス,36か国中最高です。WLバランスもバッチリ。わが国も見習いたいものですね。
次回は,これに続く12か国のカルテを展示します。中東のイスラエル,中米のメキシコなど。ではでは。
2012年6月3日日曜日
学生の街
私は高校を出て,東京の大学に入るために上京したのですが,「東京は学生が多いぞ。なんせ,石を投げたら大学生に当たるといわれているしなあ」と,担任の先生が言っていたのを覚えています。
2010年の『国勢調査』の産業等基本集計結果によると,東京の人口は1,316万人,そのうち大学・大学院に在学している者は45万人。比率にすると3.4%,およそ30人に1人です。「石を投げたら大学生に当たる」というのはオーバーでしょうが,他県に比したら,この比率が高いことは確かでしょう。私の郷里の鹿児島は,1.0%(100人に1人)です。
さて,この東京において,学生が多く居住している地域(学生の街)はどこなのでしょう。上記の『国勢調査』の統計を使って,都内の市区町村別に,人口中の大学・大学院生(以下,学生)の比率を計算してみました。下図は,1%刻みで,それぞれの地域を色分けしたものです。
黒色は,5%を超える地域です。文京区(6.2%),小金井市(6.1%),小平市(5.8%),八王子市(5.8%),日野市(5.2%),国分寺市(5.1%),国立市(5.0%),が該当します。文京区では,住民の16人に1人が学生ということになります。文京区は,東大の所在地ですよね。2位の小金井市には,私の母校の東京学芸大学があります。
以前なら,分析はここまでなのですが,最近の『国勢調査』の公表データはとても充実していて,各市町村内部の町丁別の数字も知ることができます。学生の街である文京区内において,とりわけ学生が多く住んでいる町丁はどこなのでしょう。下記サイトの表15のデータを使って,文京区内の小地域別の学生人口率を出してみました。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001036648&cycode=0
文京区全体の学生人口率は6.2%ですが,内部を細かくみると,率が際立って高い地区がいくつかあります。6つの地区は,値が10%を超えます(赤字)。中でも飛びぬけているのは,目白台1丁目の26.4%,後楽1丁目の25.0%です。この両区では,住民の4人に1人が学生です。まさに,「石を投げれば学生に当たる」地区といえましょう。
地図をみると,目白台1丁目の近辺には,早稲田大や日本女子大があります。後楽1丁目の周囲には,中央大,日大,東京医科歯科大などがあります。後者は,東大からも遠くはありません。*下記サイトのGoogleマップで,地区名を入力すれば拡大地図が出てきます。
https://maps.google.co.jp/maps?hl=ja
学生向けの商売(安食堂,屋台ラーメン屋・・・)をやろうという方は,『国勢調査』の小地域集計のデータを参考にされるとよいのでは。官庁統計は,国民の共有財産です。いつでもどこでも誰でも,ネット上で閲覧することができます。存分に活用しようではありませんか。
2010年の『国勢調査』の産業等基本集計結果によると,東京の人口は1,316万人,そのうち大学・大学院に在学している者は45万人。比率にすると3.4%,およそ30人に1人です。「石を投げたら大学生に当たる」というのはオーバーでしょうが,他県に比したら,この比率が高いことは確かでしょう。私の郷里の鹿児島は,1.0%(100人に1人)です。
さて,この東京において,学生が多く居住している地域(学生の街)はどこなのでしょう。上記の『国勢調査』の統計を使って,都内の市区町村別に,人口中の大学・大学院生(以下,学生)の比率を計算してみました。下図は,1%刻みで,それぞれの地域を色分けしたものです。
黒色は,5%を超える地域です。文京区(6.2%),小金井市(6.1%),小平市(5.8%),八王子市(5.8%),日野市(5.2%),国分寺市(5.1%),国立市(5.0%),が該当します。文京区では,住民の16人に1人が学生ということになります。文京区は,東大の所在地ですよね。2位の小金井市には,私の母校の東京学芸大学があります。
以前なら,分析はここまでなのですが,最近の『国勢調査』の公表データはとても充実していて,各市町村内部の町丁別の数字も知ることができます。学生の街である文京区内において,とりわけ学生が多く住んでいる町丁はどこなのでしょう。下記サイトの表15のデータを使って,文京区内の小地域別の学生人口率を出してみました。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001036648&cycode=0
文京区全体の学生人口率は6.2%ですが,内部を細かくみると,率が際立って高い地区がいくつかあります。6つの地区は,値が10%を超えます(赤字)。中でも飛びぬけているのは,目白台1丁目の26.4%,後楽1丁目の25.0%です。この両区では,住民の4人に1人が学生です。まさに,「石を投げれば学生に当たる」地区といえましょう。
地図をみると,目白台1丁目の近辺には,早稲田大や日本女子大があります。後楽1丁目の周囲には,中央大,日大,東京医科歯科大などがあります。後者は,東大からも遠くはありません。*下記サイトのGoogleマップで,地区名を入力すれば拡大地図が出てきます。
https://maps.google.co.jp/maps?hl=ja
学生向けの商売(安食堂,屋台ラーメン屋・・・)をやろうという方は,『国勢調査』の小地域集計のデータを参考にされるとよいのでは。官庁統計は,国民の共有財産です。いつでもどこでも誰でも,ネット上で閲覧することができます。存分に活用しようではありませんか。
2012年6月1日金曜日
明治期の離職教員の行き先
昔のメジャーな教育雑誌の『教育時論』第364号(明治28年5月15日)に,「教員を罷めたる者は何の職業に就くか」と題する記事が載っています。
「社会は教師といふ職業を薄待するが故に,有力なる教員は,皆棄てて之を去るに至れり。而して其去るべき方向は如何」という問いに対し,大よそ,以下の3種の職業への転職が多いのだと述べています。
①:巡査
②:収税吏
③:裁判書記
それはなぜでしょう。巡査の場合,警部,属官,郡長,警部長,というような進歩の道が開かれています。さらに上に進む者も少なからず。裁判書記についても,判事ないしは検事に昇格する者数多し。収税吏も,進歩の道が少ないとはいえ,これが完全に閉ざされているわけにあらず。要するに,これらの職業は前途の希望が開けている,ということです。
ひるがえって,教員はどうかというと,教員は,一度この地位に就けば,その運命は決定され,これをどうすることもできず。小学校の教員から,中学校や師範学校の教員となり,さらにその校長にまで進む道はほとんど皆無。このように,前途の希望を閉ざしているが故に,功名の念のある者は,一日たりともこの地位に安んじていはいられない。大よそ,このようにいわれています。
昔の教員の待遇が悪かったことは,よく知られています。インフレが進んだ大正期では,生存を脅かされる教員も珍しくなかったことは,4月14日の記事で申しました。それ故,教員の離職率もさぞ高かったことでしょう。しかるに,そういう金銭的な待遇面とは違った,希望閉塞という要因を指摘している点で,この記事は面白いと思いました。
記事に戻ると,「教員をして前途の企望を失はざらしむる道」として,次のように主張されています。小学校教員に「高等女学校,及び尋常中学校の下級の生徒を教ふべき資格を与え,夫より漸次に進みて,広く中学校師範学校等の教員たるを得しむべき道を開き,小学校より身を起こしたる者と雖,師範学校の校長にも,学務課の属官にも,文部省の高等官にも,官立学校の校長にも,なり得る如くせざる可らず」。中等段階の学校の側にしても,教授法の改良の点において,小学校教員の力を借りることは益多しとのこと。ふむふむ,傾聴に値する説だと思います。
現在の教員社会はどうでしょう。風通しのよいものになっているでしょうか。まあ,現場の教員が教育委員会の指導主事になったり,小学校教員が高校教員になったりするのは,結構あると聞きます。
高校以下の教員が,高等教育機関の教員になるケースも増えています。文科省の『学校教員統計』によると,大学・短大の新規採用教員のうち,前職が高校以下の教員であった者の数は,2003年度が194人,2006年度が233人,2009年度が340人です。大学の側にしても,小中高仕込みの教授技術を持った人材を少しは欲しいところでしょう。
しかるに,現在でも,「こんな所にいたら先が知れている」と,教壇を去る教員がいる可能性も否定できません。その多くは,志の高い有能な教員なのではないでしょうか。だとしたら,もったいないことです。
そういえば,某県丁職員の旧友と酒を飲んだ時,彼は次のようにぼやいていました。自分の隣に主任,その隣に主査,その隣に主幹,その奥に副課長,さらにその奥に課長が座っている。何だかもう,10年後の自分が見えている・・・。
希望閉塞状況に嫌気がさし,職を辞す教員の心境は,これに近いものなのでしょうね。「安定した道なのに・・・」と思う人が多いでしょうが,その「安定」が,たまならい苦痛の源泉になることもあるのです。私は目下,完全な展望不良状態ですが,それを楽しんでいる自分がいるのもまた事実です。強がりではありません。
昔の新聞や雑誌をくくると,斬新な視点(私にとって)に出会うことが結構あります。今後も,暇をみつけて,昔の教員の危機や困難に関する諸資料を狩猟していこうと思います。武蔵野大学の有明キャンパスに出講する曜日に,国会図書館通いをしています。
「社会は教師といふ職業を薄待するが故に,有力なる教員は,皆棄てて之を去るに至れり。而して其去るべき方向は如何」という問いに対し,大よそ,以下の3種の職業への転職が多いのだと述べています。
①:巡査
②:収税吏
③:裁判書記
それはなぜでしょう。巡査の場合,警部,属官,郡長,警部長,というような進歩の道が開かれています。さらに上に進む者も少なからず。裁判書記についても,判事ないしは検事に昇格する者数多し。収税吏も,進歩の道が少ないとはいえ,これが完全に閉ざされているわけにあらず。要するに,これらの職業は前途の希望が開けている,ということです。
ひるがえって,教員はどうかというと,教員は,一度この地位に就けば,その運命は決定され,これをどうすることもできず。小学校の教員から,中学校や師範学校の教員となり,さらにその校長にまで進む道はほとんど皆無。このように,前途の希望を閉ざしているが故に,功名の念のある者は,一日たりともこの地位に安んじていはいられない。大よそ,このようにいわれています。
昔の教員の待遇が悪かったことは,よく知られています。インフレが進んだ大正期では,生存を脅かされる教員も珍しくなかったことは,4月14日の記事で申しました。それ故,教員の離職率もさぞ高かったことでしょう。しかるに,そういう金銭的な待遇面とは違った,希望閉塞という要因を指摘している点で,この記事は面白いと思いました。
記事に戻ると,「教員をして前途の企望を失はざらしむる道」として,次のように主張されています。小学校教員に「高等女学校,及び尋常中学校の下級の生徒を教ふべき資格を与え,夫より漸次に進みて,広く中学校師範学校等の教員たるを得しむべき道を開き,小学校より身を起こしたる者と雖,師範学校の校長にも,学務課の属官にも,文部省の高等官にも,官立学校の校長にも,なり得る如くせざる可らず」。中等段階の学校の側にしても,教授法の改良の点において,小学校教員の力を借りることは益多しとのこと。ふむふむ,傾聴に値する説だと思います。
現在の教員社会はどうでしょう。風通しのよいものになっているでしょうか。まあ,現場の教員が教育委員会の指導主事になったり,小学校教員が高校教員になったりするのは,結構あると聞きます。
高校以下の教員が,高等教育機関の教員になるケースも増えています。文科省の『学校教員統計』によると,大学・短大の新規採用教員のうち,前職が高校以下の教員であった者の数は,2003年度が194人,2006年度が233人,2009年度が340人です。大学の側にしても,小中高仕込みの教授技術を持った人材を少しは欲しいところでしょう。
しかるに,現在でも,「こんな所にいたら先が知れている」と,教壇を去る教員がいる可能性も否定できません。その多くは,志の高い有能な教員なのではないでしょうか。だとしたら,もったいないことです。
そういえば,某県丁職員の旧友と酒を飲んだ時,彼は次のようにぼやいていました。自分の隣に主任,その隣に主査,その隣に主幹,その奥に副課長,さらにその奥に課長が座っている。何だかもう,10年後の自分が見えている・・・。
希望閉塞状況に嫌気がさし,職を辞す教員の心境は,これに近いものなのでしょうね。「安定した道なのに・・・」と思う人が多いでしょうが,その「安定」が,たまならい苦痛の源泉になることもあるのです。私は目下,完全な展望不良状態ですが,それを楽しんでいる自分がいるのもまた事実です。強がりではありません。
昔の新聞や雑誌をくくると,斬新な視点(私にとって)に出会うことが結構あります。今後も,暇をみつけて,昔の教員の危機や困難に関する諸資料を狩猟していこうと思います。武蔵野大学の有明キャンパスに出講する曜日に,国会図書館通いをしています。
登録:
投稿 (Atom)












