2019年8月4日日曜日

宿題の国際比較

 夏休みですが,子どもたちはせっせと宿題に精を出していることと思います。

 ねらいは,1学期に習ったことの定着,生活のリズムを整える,というものでしょう。休みとはいえ,勉強の習慣が崩れてしまうのは困る。1日,一定時間は机に向かってほしい。こういう思いから,長期休暇には宿題が出されています。

 ただ宿題は学習指導要領で規定されたことではなく,出すか出さないかは,各学校,ないしは教員の任意です。休み中は色々な体験をしてほしいという願いから,宿題は最小限,ないしは撤廃している学校も稀にあると思います。学部の比較教育学の授業で聞いた話ですが,バカンスの国・フランスでは,小学校では宿題なんて出ないそうです。

 ホントですかねえ。IEAの理数教科の国際学力調査「TIMSS 2015」で,宿題の設問があったような気がします。教員に対し,算数(数学)ないしは理科の宿題を,週にどれくらいの頻度で出すかを問うものです。
https://timssandpirls.bc.edu/timss2015/international-database/

 算数の宿題をどれくらいの頻度で出すか? 小学校4年生の教員の回答分布を,主要国について出すと,以下のようになります。リモート集計でやりましたので,粗い整数値になっていることをお許しください。「瑞」はスウェーデンです。


 日本をみると,「毎日出す」という回答が58%で最も多くなっています。アメリカとドイツも,結構出すようです。

 フランスは,出さないという回答が33%と最多です。ただこの国では,他の階級に回答が分散しており,出す教員もいれば出さない教員もいる,というのが正確ですね。子どもによかれと思うなら出す,そうでないなら出さない。教員の裁量の幅があるみたいです。お国柄が出ているようで,ちょっと面白い。

 なお宿題をいっても,数分で終わるライトなものから,手間がかかるヘビーなものもあります。宿題を出す頻度だけでは不十分。そこで,宿題を出すと答えた教員に対し,「受け持っている児童がする場合,どれくらいの時間がかかるものを出すか」も訊いています。この設問の回答分布は以下のごとし。


 フランスを除く6か国では,16~30分の宿題が最も多いようです。こんなものですかねえ。私が小4の時は,B5のわら半紙1枚の計算プリントがよく出ていたな。10分程度で終わるものでした。

 フランスは,15分以下で終わる簡単なワークが大半です。宿題を出す頻度が少なく,出るとしてもイージーなもの。宿題に,あまり重きを置いてないようです。押し付けをとことん嫌う国ですが,子どもの自主性が尊ばれているのでしょうか。

 「TIMSS 2015」から,48か国のデータを知ることができます。宿題を出す回数と,かかる時間の平均値を出し,それを比べてみましょう。各国の回答分布から,階級値を使って割り出します。階級値は,以下のように設定しました。

宿題を出す頻度
 出さない=0回
 週に1回未満=0.5回
 週に1・2回=1.5回
 週に3・4回=3.5回
 毎日=7回

宿題にかかる時間
 15分以下=15.0分
 16~30分=23.0分
 31~60分=45.5分
 60分以上=74.5分

 この場合,日本の教員が週に宿題を出す回数の平均値は,以下のようになります。

 {(0回×7)+(0.5回×1)+…(7回×58)}/100=5.12回

 このやり方で,宿題を出す回数と,宿題にかかる時間の平均値を国別に計算しました。以下のグラフは,横軸に前者,縦軸に後者をとった座標上に,48か国を配置した布置図です。


 右上は,比較的ヘビーな宿題が多く出る国です。旧共産圏やアジア諸国が多し。勤勉な国民性とリンクしているように思えます。日本もこのゾーンです。

 対極の左下は,宿題に重きが置かれない社会。先ほどみたフランスはこの典型で,自由の国・オランダもここにあります。韓国もこのタイプですが,他のアジア諸国から隔たっているのが意外です。超受験社会で,小学校のうちから塾通いする子が多いためでしょうね。

 宿題の国際比較をやってみましたが,宿題が多い社会もあれば,少ない社会もある。それぞれのお国柄の所産で,どっちがいい悪いという話ではありません。ただ,「日本は宿題が多すぎる(少なすぎる)!」という,極端な偏見は正されるかと思います。

 長期休暇中の宿題なんて,子どもの才能の芽を摘む足かせ。夏休みくらい,やりたいことをうんとさせればいいのではないか。ユーチューバーを志す子がいるなら,思う存分,動画を作らせればいい。理想と現実のギャップを知る機会にもなる。こういう考えもあるでしょう。

 一方で,夏休みの宿題は,大きな仕事をコツコツ計画的に成し遂げることを体験させる「隠れたカリキュラム」にもなっている。それを取り上げるのは,子どもの成長を阻むことになる。こういう捉え方もあります。共働きの親御さんにすれば,子どもがヒマにならぬよう,宿題をたくさん出してほしい,と願うでしょうか。

 極端な結論を出さず,地域や学校の実情に応じて,グラデーションをつければいいと思います。ただ,昨今台頭している,宿題代行業はいただけないです。子を受験勉強に集中させたい親からせっせと依頼を受けていますが,ズルをしてもいいのだと,子どもに教え込むことになってしまう。宿題は学習指導要領で定められたことではないので,取り締まりのしようがないのですが,文科省もよくは思っていないようです。

 今は「代行」の時代ですが,家事や育児等,許される代行もあれば,そうでない代行もある。この辺の区別はつけておきたいもの。

 暑くなりました。こまめに水分を補給し,熱中症には気を付けましょう。