6月15日の記事では,若者にとってキツイ産業はどういうものかをみたのですが,今回は,職業に注目してみようと思います。
各職業のキツさのバロメーターとしては,給与とか労働時間とかが使われるのが普通ですが,ここではそういう外的な指標ではなく,当該職業の従事者(正社員)がどれほど「ヤメタイ」と思っているかという,内的な側面に着目します。
総務省の『就業構造基本調査』では,調査対象の有業者の就業希望意識を明らかにしています。用意されているカテゴリーは,「就業継続希望」,「追加就業希望」,「転職希望」,および「就業休止希望」です。私は,後2者の回答の比重を計算してみました。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm
2012年調査の結果によると,20代の正規雇用者は617万人。そのうち,転職を希望している者は96万人,就業休止を希望している者は9万人ほどです。よって,若き正社員の転職・就業休止希望率は17.1%となります。およそ6人に1人。結構いるものですね。
私は,66の職業について,同じ値を出してみました。下表は,高い順に並べたランキング表です。
トップは経営・金融・保険専門業で,20代の正社員の転職・就業休止希望率は43.2%にもなります。
日本職業標準分類の解説によると,「高度な企業経営・金融・保険に関する専門的知識や実務経験に基づき,他人の求めに応じて,財務会計,人事労務に関するコンサルティング,財務監査,税務指導などの仕事及び資産運用や金融取引に関する助言・リスクヘッジ・リスクマネジメント・投資戦略の設計などの仕事」だそうです。給与はいいのでしょうが,責任重大でストレスが多そうですね。
ほか,印刷・製本労働者,接客・給士も上位に挙がっていますが,後者には,飲食店の店員さんも含まれるでしょう。
教員はというと,9.0%で57位です。案外低いのですな。最近需要が高まっている介護サービス職は,19.1%で22位なり。
上表は資料としてみていただければと思いますが,あと一つの作業として,正社員全体の転職・就業休止希望率も勘案して,66職業の位置構造を描いてみましょう。こうすることで,若年従業者に危機や困難が集中している度合いも可視化することができます。
横軸に15歳以上の正規雇用者の転職・就業休止希望率,縦軸に20代の正規雇用者のそれをとった座標上に,66の職業を位置づけてみました。
斜線は均等線ですが,ほとんどの職業において,全体よりも若者の転職・就業休止希望率が高くなっています。教員でいうと,全体は6.5%,20代は9.0%です。最近は,若い先生は大変だっていいますしね。
お分かりかと思いますが,全体と20代の差は,斜線からの垂直方向の距離でみてとれます。上方に隔たっているほど,当該職業では,若者に危機や困難が集中する度合いが高いことを示唆します。
ほう。経営・金融・保険専門業は,若年正社員の転職・就業休止希望率が高いのもさることながら,上の年齢層との格差も大きいようです。印刷・製本業や接客・給士も然り。これらの職業では,職業集団内における若年就業者の位置について点検する必要がありそうです。
私見ですが,定期的に上記のような構造図をつくって,それぞれの業界ないしは職業集団に注意を呼び掛けるようなことをしたらどうかしらん。
定期健診を必要としているのは,労働者個々人だけではありません。集団(社会)もそうです。私が専攻する社会病理学の仕事の一つはここにあり。