2013年7月7日日曜日

女子生徒の専業主婦希望率の国際比較

 昨年の11月5日の記事では,15歳生徒の志望職業の国際比較をしたのですが,そこで分かったのは,日本の生徒の志望職業未定率が高いことです。約2割の生徒が,30歳頃就いていたい職業が何かを明言できずにいます。

 この分析に使ったのは,国際学力調査“PISA2006”の生徒質問紙調査のデータです。対象の15歳生徒に対し,「30歳頃の時点において,あなたはどういう仕事に就いていたいか」と尋ねています(Q30)。

 職業の名称を自由に記入してもらい,それを後から分類するアフター・コード形式ですが,分類コードの中に「専業主婦(Housewife)」というものがあることに気づきました。このコードが振られた回答の比率をとることで,各国の生徒の専業主婦(夫)希望率を出すことができます。

 私はこのやり方に依拠して,調査対象となった,56か国の女子生徒の専業主婦希望率を明らかにしてみました。「男は仕事,女は家庭」というようなジェンダー観念は,昔に比べてだいぶ弱まったといわれますが,21世紀日本の女子生徒の専業主婦希望率はどれほどなのか,国際的な位置は如何。この点をみてみましょう。

 上記の設問に有効回答(無回答,意味不明な回答を除く)を寄せた,日本の女子生徒は2,562人です。このうち「専業主婦」というコードを振られているのは103人となっています。「分からない」は163人,「曖昧」は361人です。後者は,「会社員,OL」というような曖昧な記述であり,どういう職業か判別し難いと判断された回答です。この3つの合算を全体から差し引いた分が,明確な職業志望を持っている生徒ということになります。

 下図は,日本と主要先進国について,この4カテゴリーの回答分布を図示したものです。カッコ内の数は,分析対象とした有効回答数です。前後しますが,OECDのサイトから上記調査のローデータをダウンロードして,私が独自に作成した統計であることを申し添えます。
http://pisa2006.acer.edu.au/downloads.php


 どの社会でも,明確な将来展望を持っている生徒が多数派のようですが,日本はその割合が相対的に少なくなっています。何らかの明確な職業名を記した生徒は,他国では9割前後ですが,わが国では4分の3ほどなり。その分,「曖昧」という回答コードの比重が高くなっています。

 この点は,昨年の11月5日の記事でもみたところですが,今回の主眼の専業主婦希望率はどうかというと,国を問わず,赤色の幅はごくわずかです。フランスや北欧国では皆無。まあ,幾多の夢を抱いている青少年の回答結果ですから,当然といえばそうです。

 しかるに相対差という点でみると,日本の値が最も高くなっています。日本の15歳女子生徒の専業主婦希望率は4.0%,25人に1人です。

 絶対量としては多くありませんが,他の先進国に比べて高いのですね。比較の対象をもっと広げるとどうでしょう。56か国の女子生徒の専業主婦希望率を計算し,高い順に並べてみました。


 ほう。日本がトップではないですか。2位の韓国との開きが大きいことにも注目。相対差ですが,わが国は,うら若き女生徒の専業主婦希望率が,世界で最も高い社会であることが知られます。

 昨年の11月8日の記事では,わが国の女子生徒の理系志向が国際的にみて最下位であることをみました。このことを併せて考えると,日本の学校教育では,女子生徒が自らの可能性を封じ込めてしまう,能力開花の機会を放棄してしまうように仕向けられる「見えざる」過程があるのではないか,という疑いを持ちます。

 全体の4.0%(25人に1人)にだけ関わる問題として,上記のデータを読むべきではないでしょう。青少年期におけるジェンダー的社会化の過程という,もっと大きな問題が提起されているのだと思います。

 こうした過程が,個人の成長の時間軸において本当に存在するのか。この点を吟味するには,長期にわたる追跡調査のような作業も必要です。ここでみた専業主婦希望率等によって構成される,ジェンダー観念強度の年齢曲線とかを描いた研究ってあるんかな。

 私の予想ですが,発達の段階を上がるにつれ,生徒(とりわけ女子生徒)のジェンダー観念は強くなるのではないかと思われます。「中1ギャップ」ではありませんが,小6と中1の境が大きいのではないかなあ。私の頃みたいに,女子は家庭科,男子は技術科というようにカリキュラムが分化することはなくなっていますが,時間割の上に表れない「隠れた」カリキュラムの影響も侮りがたし。

 話が大きくなりますが,わが国では今後,少子高齢化が加速度的に進行します。労働力不足の問題も深刻化することでしょう。こうした状況のなか,女性の力を「活かす」方向に舵を切ることが求められています。

 そのための施策は,女性が働きやすい環境をつくるという外的な要素と,人々のジェンダー観念の撤廃という内的な要素からなります。前者にウェイトを置いている社会がほとんでしょうが,わが国は,後者の面にも力点を置かねばならない社会です。人生の初期段階におけるジェンダー・フリー教育の充実は,その重要な一角を構成します。

 その指針を得る上でも,ジェンダー観念強度の年齢曲線のようなものが精緻な手法で描かれることが望まれるでしょう。ここでみたのは,15歳という「一時点」における,専業主婦希望率という「一指標」ですが,これだけからも,日本の特異な位置が明らかになりました。

 観測地点(年齢)や観測用具(指標)を増やすことで,より多くの知見が得られること間違いなしです。そうした科学的知見に依拠して,ジェンダー・フリー教育のカリキュラムの体系化を図る。研究と実践の連携って,こういうことなのではないかと思っています。

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