1月9日に,2013年度の『東京都児童・生徒体力・運動能力,生活・運動習慣等調査』が公表されました。そこでは,都内の公立小・中学生の体力テストの結果が市区別に公表されています。これはスゴイ。
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/pickup/seisaku_sport-6.htm
本調査では,握力,上体起こし,50m走,立ち幅跳びなどの種目の記録を合成して総合スコアを出し,それに依拠して,A~Eの5段階の評定がなされます。私は,公立小学校4年生男子のうち,AもしくはBの評価を得た児童の比率を,都内の23区別に出してみました。
以前に,子どもの学力を都内の地域別に計算したことがありますが,はて,体力のほうはどれほどの地域差があるか。下の図は,結果をマッピングしたものです。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110006793455
大都市という基底的特性を同じくしながらも,結構な差がありますね。荒川区の29.2%から中央区の53.5%まで,20ポイント以上ものレインヂが観察されます。
色が濃いゾーンをみると,特別区の中でも真ん中の都心部ではないですか。これらの区では,体育の授業を校舎の屋上でやっている学校もあると聞きますが,そういう運動環境の面とは関連がないようです。
ここにて,子どもの体力との関連が疑われるのは,社会階層の要因です。濃い色の区には,港区のように,富裕層が多く住んでいる区も含まれています。子どもの学力の社会的規定性はよく知られていますが,体力についても同じことがいえるのではないか。
私は,こういう仮説をもって,各区の都民税・区民税課税額との相関をとってみました。この指標は,各区の住民の富裕度を表すものとして使えます。出所は,2011年度の『東京都税務統計年報』です。
住民の富裕度と小4男子の体力の相関係数は+0.6701であり,1%水準で有意です。千代田区と港区を「外れ値」として除外すると+0.4617まで下がりますが,これでも5%の有意水準は保っています。
学力のみならず体力についても,社会的規定性の一端が見受けられます。まあ,スポーツクラブに子どもを通わせるのだって,結構お金がかかりますしね。
それと,生活習慣の影響も考えられます。本ブログでは,同じ都内の地域データを使って,子どもの肥満率・虫歯率と貧困の関連を明らかにしたことがありますが,食生活をはじめとした生活習慣の乱れが,子どもの体力に影響するという経路も想起されます。
ちなみに,運動に対する意識をとっても,同じ構造の地域差がみられます。下の地図は,運動が「ややきらい」もしくは「きらい」と答えた児童の比率マップです。上図と同様,公立小学校4年男子のものです。
どうでしょう。最初にみた,体力テストの好成績マップとは模様が逆になっています。この「運動ぎらい」率は,各区の都民税・区民税課税額と-0.7345という相関関係にあり,体力テストの成績にもまして,社会階層の要因と強く関連していることが示唆されます。
子どもの体力向上の施策として,体育の授業時数を増やすとか外遊びを促すとかいうことがいわれますが,その社会的規定性の側面にも関心が向けられるべきだと思います。体力と社会階層の関連経路の詳細については,私の知るところではありませんが,スポーツ社会学等の分野である程度のことが解明されているのではないかしらん。
2013年度の文科省『全国学力・学習状況調査』では,児童・生徒の家庭環境をも把握する「きめ細かい」調査が実施されています。学力については,その社会的規定性が繰り返し指摘されるなか,当局も黙ってはいられなくなった,ということでしょう。
今後は,体力の面にも同じ見方を適用すべきかもしれません。あと数年したら,文科省の『全国体力・運動能力,運動習慣等調査』でも,家庭環境を把握する「きめ細かい」調査が実施されていたりして。
東京都は,独自に実施している体力テストの結果を初めて市区別に公表したわけですが,うやむやとしている体力の社会的規定性に関する議論に,実証的な礎(いしずえ)を提供する英断といえます。敬意を表したいと思います。