女子中高生の性犯罪被害率の時系列カーブを見ていただきましょう。中高生が被害者である強姦・強制わいせつ事件の認知件数を,ベースの女子中高生数で除した値です。2012年中の事件認知件数は2377件,同年5月時点のベースは340万人ですから,10万人あたりの被害件数は69.9件となります。この値を性犯罪被害率とします。
分子の事件件数は警察庁『犯罪統計書』,分母の生徒数は文科省『学校基本調査』から得ました。下の図は,1975年から2012年までの推移図です。
昔に比べて増えていますね。1990年代後半からの増加が著しいようですが,ネットの普及に伴う,出会い系サイトなどの増殖によるものでしょうか。被害率は2003年にピークに達した後は低下していますが,最近微増に転じています。
まあ,性犯罪は親告罪ですので,積極的に被害を訴える生徒が増えたということかもしれませんが,この点は置くとして,可憐な女子生徒が被害に遭う構造的条件が出てきてもいます。何のことはありません。人口構造の変化です。
被害者層を13~18歳の女子,加害者層を成人男性に見立てて(失礼!),両者の量がどう変わったかを整理すると下表のようになります。
少子高齢化により,被害者層が減り,加害者層が増えています。その結果,女子生徒1人あたりの成人男性数も増えています。戦後初期の1950年では4.1人でしたが,2013年現在では14.4人です。今日では,女子生徒1人に対し,14.4人のオトナ男性の眼差しが注がれていることになります。
2050年には,この値は19.4にまで高まることが予想されます。女子生徒1人につき,20人近くの成人男性という事態です。
文章ではピンとこないでしょうから,状況の変化を図で表現してみましょう。1950年と2050年について,被害者層と加害者層の人口量(万人)を正方形で表してみました。100年間の構造変化図です。
下(被害者層)が小さくなり,上(加害者層)が大きくなっています。後者から前者に注がれる眼差し量の変化も一目瞭然(黄色矢印)。人口統計をちょっといじれば分かることですが,こういう基底的な条件があることを押さえておくべきかと思います。
今述べたことは,少年問題全般を考える上でも,知っておくべきことでしょう。少子高齢化の進行により,子どもが減り,成人が増えていきます。2050年には,「子ども1:大人9」という社会になります。1人の子どもに対し,大人9人の(ウザい)眼差しが注がれるわけです。
現在もそうですが,暇を持て余した大人たちによって,「**問題」「**問題」というような子ども問題が社会的に構築される…。こういう事態がますます増えるかもしれません。教育現場に対しても,「**教育をやれ」というクレームが増える可能性もあります。未来の学校は,暇を持て余した多くのクレーマーに包囲された,息の詰まる場になっているかもしれませんね。
未来の日本は,子どもが手厚く保護される反面で,彼らにとってさぞ「生きにくい」社会になるのでは…。私はこういう危惧を持ちます。
著名ブロガーのちきりんさんが,「教育に関心があるなどと言い出したら,その人の成長は終わりだということ」とおっしゃっていましたが,全くその通りだと思います。これからのオトナたちが,肝に銘じるべき名言かと。
量的にますます少なくなっていく子どもを「いじめ」るようなことはしないで,まずは自分のことをしようではありませんか。ウザい説教を垂れるよりも,無言の「背中」を見せるほうがよいでしょう。
私は教育学を勉強している人間ですが,「教育に関心がある」などと公言するのは控えたいと思っています。そうではなく,社会の下位システムとしての教育が社会にどのような影響を及ぼすか,逆に社会によっていかに規定を被っているか。明らかにしたいのは,こういうことです。