前々回の記事では,中学校教員の勤務時間の国際比較をしましたが,日本の教員は世界一働いていることを知りました(うち多くは事務などの雑務)。
しかるに教員といっても,一枚岩の存在ではありません。男性もいれば女性もおり,若年層もいれば高年層もいます。過労に陥っているのは誰か。こういう問題を考えることも必要になります。いわゆる,属性別の分析です。
今回は,中学校教員の年齢層別の勤務時間をみてみましょう。日本は年齢による役割規範が強い社会ですが,長時間勤務の問題をとっても,年齢によって様相は違うと思われます。
データは,このほど公表された国際教員調査(TALIS 2013)です。本調査では,対象の中学校教員に対し,週当たりの勤務時間を尋ねています。自宅での教材研究なども含む,広義の勤務時間です。実際の時数を記入してもらう形式ですが,入力段階のローデータを加工して,10時間ごとの6カテゴリーにまとめました。
http://www.nier.go.jp/kenkyukikaku/talis/
5歳刻みの年齢層別に,この6カテゴリーの分布を明らかにしました。下の図は,結果を視覚化したものです。
長時間勤務は,若年層ほど多くなっています。20代では全体の6割以上が週60時間以上働いており,3人に1人が週70時間以上勤務です。新聞各紙では,教員全体の勤務時間の長さが報じられていますが,負担は若年層に集中しているようです。(悪しき)年功序列がみられます。
しかし,週60時間ということは,5日勤務として1日12時間のレベルです。70時間,80時間となるともう,土日を返上ということでしょう。中学校では,休日の部活指導も大きな負担になっているといいますが,上図をみると頷かされます。
上図は日本の中学校教員のグラフですが,他国と比較することで相対化してみましょう。50時間未満(ホワイト),50時間以上60時間未満(準ブラック),60時間以上(ブラック)という3カテゴリーを設定して,日韓米英仏瑞の6国の図をつくってみました。
以下に6国の図を掲げます。ここでは,ブラックゾーンの広がりを分かっていただければよいので,目盛は省いています。各年齢層の位置は,先ほどの図をもとに大よその検討をつけてください。
わが国では,週60時間以上のブラックゾーンが広がっています。仏瑞ではブラックはほとんどなく,韓米英はその中間というところです。教員のブラック化は,日本の特徴なのですなあ。
なお右上がりの模様も,日本独特のものです。アメリカやイギリスでも黒色はありますが,ほぼフラットであり,年齢による偏りはないことが知られます。対して,日本は若手に負担がのしかかる型です。「下は支えるぞんざい,上は支えられる存在」という年齢規範の存在が示唆されます。
まあ昔のように,下が厚く上が細い「ピラミッド型」の年齢構造ならこれでもよかったのでしょうが,今は違っています。下が細く上が厚い「逆ピラミッド型」です。こういう構造と先ほどの勤務時間のデータを絡めると,近年の若年教員の危機を理解するヒントが得られます。
下の図は,2010年の中学校教員の年齢ピラミッドを,週あたりの勤務時間で塗り分けたものです。各年齢層の本務教員数に,上記で明らかにした勤務時間分布の比率を乗じて作成しました。
いかがでしょう。量的に少ない若年層に負担が凝縮されている様が明らかです。少ない人員で,上から降ってくる各種の業務を裁いている若手の苦悩がうかがえます。
昨年の11月17日の記事では,公立学校教員の病気離職率が増加していることを明らかにしたのですが,入職して間もない20代前半の層で増加幅が大きいことも知りました。上図の赤マルの部分です。
社会病理学的に,教員集団を生物有機体になぞらえると,一番下のこの部分に病巣があるようです。治療が要請されます。メンタルヘルス云々の前に,黒の膿を取り除き,白色を増やすことが必要でしょう。
教員個々人の診断も大事ですが,彼らが集まってできる教員集団(社会)の診断も手掛ける。個々の教員は,真空の中で実践を行っているのではないのですから。文脈に目を向けるとは,こういうことです。