2014年9月20日土曜日

高校偏差値と朝食欠食率の相関

 東京都は,調査データの公表に積極的です。1月28日の記事では,都の体力テストの市区町村別データを使って,都内23区の子どもの体力地図をつくりました。この記事は,見てくださる方が多かったようです。

 一昨日,同じ調査の公表データを見ていたら,何と何と,高校調査においては学校別の結果も公表されているではありませんか。調査対象となった都立高校の体力テストの結果や,運動に対する意識,果ては生活状況なども学校別に知ることができます。

 教育社会学を専攻する人間なら,「学校ランクとの相関はどうか」という問題意識が直ちにわくでしょう。わが国の高校は,有名大学への進学可能性に依拠して,精緻に序列づけられています。その構造は,専門用語で「高校階層構造」といわれますが,階層構造内のどの位置の高校かによって,生徒の生活意識や行動が大きく異なることが,幾多の調査研究で明らかにされています。

 たとえば渡部真教授の研究によると,階層構造内で下位にある学校ほど,非行に親和的な文化(delinquent subculture)が蔓延しているのだそうです。これは80年代初頭の研究成果ですが,現在でもそうであることは,肌感覚でも分かります。組織における生徒の社会化作用,侮りがたしです。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110002779743

 私は,上記の都の調査データを用いて,学校ランクと生徒の朝食欠食率の相関を明らかにしようと考えました。思春期にもなれば食生活が乱れてきますが,それが著しいのはどういう生徒か,どういう学校の生徒か。こういう問いを立てることも必要になります。まあ,関係者の方なら薄々感じていることでしょうが,データでもって可視化してみましょう。

 都の体力テストの正式名称は,『東京都児童・生徒体力・運動能力,生活・運動習慣等調査』というものです。最新の2013年度の高校調査では,対象となった都立高校の結果が学校別に公表されています。
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/pickup/seisaku_sport-6.htm

 手始めに,入試偏差値が異なる3つの高校を適当に取り出して,2年生男子の朝食摂取状況を比較してみましょう。入試偏差値は,下記サイトに掲載されているものを使わせていただきました。
http://www.geocities.jp/toritsukoukou2/


 進学校,中位校,下位校の比較図ですが,入試偏差値と見事に相関しています。朝食を毎日食べている生徒の割合は進学校ほど高く,食べない生徒の率はその逆です。偏差値39のC校では6人に1人が,朝食を「食べない」と明言しています。

 これは適当にピックアップした3校の比較ですが,上図の傾向は一般化され得るでしょうか。調査対象の都立高校のうち,偏差値が判明する160校のデータを使って吟味してみましょう。

 私は,この160校について,2年生男子の朝食欠食率を出し,偏差値の群ごとに分布がどう違うのかを調べました。朝食欠食率とは,「食べない」と答えた者の率です。上図でいう緑色の領分です。

 下の図は,分布を視覚化したものです。6つの偏差値群別に,朝食欠食率の高低に基づいて,各学校がプロットされています。


 どうでしょう。偏差値が低い群ほど,高いゾーンに多く分布していますね。偏差値65以上の上位群は「0.0~6.5%」という分布ですが,偏差値45未満の下位群の分布幅は「7.0~26.8%」です。

 赤のラインは各群の平均値(average)を結んだものですが,きれいな右下がりの傾向です。朝食欠食率は,偏差値が上がるにつれて低くなる。セブンティーン男子の食生活の乱れは,学校ランクと明瞭に相関していることが知られます。

 これをどうみるかですが,2通りの経路を想起することができるでしょう。一つは,各学校の生徒文化です。下位の高校では,午前中の休み時間などに,仲間と群れて買い食いする。それをしないと爪はじきにされる。こういう行為規範が強いのかもしれません。

 今回のデータは2年生のものですが,入学して日が浅い1年生のデータでは,学校ランクによる欠食差は比較的小さいと思われます。入った高校のスクールカルチャーに染まる度合いが,まだ低いでしょうし。

 あと一つは,在籍生徒の家庭環境の違いです。どのランクの高校かによって,生徒の階層構成は異なるでしょう。上位校ほど,富裕層の子弟が多い。ゆえに,偏差群の差は,生徒の家庭環境の差の反映ともとれます。朝食にも事欠くような家庭は稀でしょうが,幼少期からの食生活の躾ができていない。こういう家庭の子弟は,下位校において相対的に多いと思われます。

 生徒文化説と家庭環境説。2つの可能性を示唆しましたが,どちらが強いかは,学年間のデータを比較することで分かるでしょう。学年を上がるにつれて,欠食の学校ランク差が拡大するのであれば前者,そうでないならば後者が支持されます。まだ準備ができていませんが,これから手がけてみたい作業です。

 さて,朝食欠食に象徴されるような生活スタイルが,在籍する学校のランクによって明瞭に異なる事実が分かりました。東京都は,2003年の都立高校の学区を全廃したと聞きますが,それ以降,高校格差が拡大し,今回みたような事態になっているのでしょうか。10年前のデータがもしあるなら,こうした政策の効果を検証できるところです。

 「朝食を食べる食べないなんて,個人の勝手じゃん」。こういう意見もあるでしょうが,個人の自由な意志(嗜好)とて,社会的に決定づけられる。この点を看過すべきではありません。それを放置することが,健康格差のような,人間の生命につながることであるならば,なおさらです。

 個人の自由な選択の結果として片付けられがちな現象が,実は社会的規定性を被っていること。それを可視化し,政策的な介入(是正)を正当化するエビデンスを提供すること。教育社会学の使命の一つは,こういうものであると私は考えています。

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