少子高齢化でただでさえ若者が少ないのに,彼らの投票率は低いものですから,投票所に足を運ぶ人間の年齢構成は完全な「逆ピラミッド」型になっています。高齢者によって選ばれた政治家が,高齢者のための政治をする。こんな感じでしょうか。
若者の投票率が低い原因としては,「行くのが面倒,かったるい」ということもあるでしょうが,政府に対する不信も大きいでしょう。
ISSPの2010年の環境意識調査では,「たいてい,政府の人間のすることは正しいと信じられる」という項目に対する反応を調べています(Q5a)。各国の20代の若者のうち,「そう思わない」ないしは「全くそう思わない」と答えた者の比率を出し,ランキングにすると下図のようになります。
*ISSP調査では,ドイツは東西に分けて回答が集計されています。フランドルとは,ベルギー内の地域です。イスラエルは,ユダヤ人とアラブ人に対象が分けられています。
日本の若者の政府不信率は86.0%,世界でトップです。他の先進国を大きく引き離しています。東欧も不信率が高いようですが,四半世紀前に社会がひっくり返ったことに対する不信(懐疑)が尾を引いているのでしょうか。不信率が最も低いのは,直接民主制をしいているスイスです。
ちなみに日本は,政府不信率の世代差が大きいことも特徴です。若者と高齢者の断絶の大きさは,こういう所にも出ています。それを「見える化」してみましょう。横軸に60歳以上の高齢者,縦軸に20代の若者の不信率をとった座標上に,34の社会をプロットしてみました。
実斜線は均等線ですが,多くの国がこれよりも上にあり,高齢者より若者の政治不信が強いことが知られます。しかし,アメリカやイスラエル(ユダヤ人)のように,どの逆の社会もあります。
「高齢者<若者」の世代差ですが,その程度は国によって違っています。実斜線からの垂直方向の距離で測られますが,日本はそれがマックスです。高齢者の不信率が55.5%であるのに対し,若者は86.0%,政府に対する不信の世代差が最も大きい社会です。
高齢者によって選ばれた為政者による,高齢者のための政治。こういう構図が続いてきたことに対する,「いじけ」の表れといえましょうか。
ところで,有意差ではありませんが,主要国の20代のデータを細かく分析すると,次のような傾向が出てきます。日本では,政府に不信を持っている群の選挙投票率が,そうでない群よりも低くなっています(直近の選挙に投票したか,という設問への回答による)。しかしながら,欧米諸国ではその反対なのです。政府に不信を抱いている若者のほうが,そうでない者のよりも選挙に行く率が高くなっています。
日本では「今の政府はダメ,もう放っておこう」ですが,海外では「今の政府はいかん,変えねば」となる。虐げられた現状の打開を求めるにあたって,内を向くか,外を向くかの違いです。前に,殺人率と自殺率の関連を手掛かりに,日本人の国民性は「内向型」と性格づけたことがありますが,それと通じているように思えます。
「籠る」ではなく「変える」。こういう方向転換がないと,事態はいつまでたっても同じまま。選挙年齢が18歳に下がったことに伴い,高校での政治教育により重点が置かれるそうですが,動けば変わるということを,具体的な先人の事例をもって,エネルギーにあふれた若人に教える必要があるのではないかと思います。
わが国に特徴的な病理は,若者の政府不信率がべらぼうに高いことに加えて,それが「内こもり」とつながってしまっていることです。諸外国では,政府不信の炎(怒り)が改革志向に向かうことと対照的。20代の86%という不信の剣を,社会変革の方向に仕向けたいものです。