2015年12月18日金曜日

貧困といじめ被害・不登校の関連

 先日,厚労省『21世紀出生児縦断調査(2001年生まれ)』の第13回調査の結果が公表されました。2001年に生まれた子ども約3万人を追跡し,各年齢時点での生活状況を把握する調査です。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/27-9.html

 昨年(2014年)に実施された第13回調査では,13歳になった子どもの状況が把握されています。学年でいうと,中学校1年生です。

 思春期の難しい年頃であるだけに,親御さんの悩みもさぞ多いことでしょう。この調査では,調査対象の子どもの保護者に,子どもを育てていて大変と思うことを複数回答で尋ねています。それをグラフにすると,以下のようになります。


 子どもの成績,子育て費用,子どもの将来に関する悩みが多くなっています。13歳の親のうち,3割以上がこの種の悩みを持っていると。さもありなんです。中学校に上がったら塾通いもするようになり,出費もかさむでしょうし。

 4位には,「子どもの反抗的な態度や言動」が挙がっています。13歳といえば反抗期の盛りの時期です。親からの独立を志向し始め,親の言うことに反抗するようになります。体が大きくなっているにもかかわらず,一人前の役割を与えられない。昔に比べて現在では,そのギャップがますます大きくなってきています。第2次反抗期は,それに由来する心的葛藤の表われです。

 親や教師は,そうしたあがきを抑えつけるだけではなく,それを伸ばしていく構えも求められるでしょう。この点については,日経デュアルにも書きました。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=2332

 ちなみに上記の悩みの率は,子が男子か女子かによって違います。男子の親は女子の親よりも,子どもの成績や将来のことで悩んでいる者の率が高くなっています。これなどは,子どもに対する教育期待のジェンダー差の表われとみてよいでしょう。

 しかるに,子どものジェンダーによる違いよりも注目されるのは,家庭の年収による違いです。下表は,両親の年収総額別に,13歳の親の悩みがどう変化するかを整理したものです。数値は,それぞれの項目の悩みを抱いている親の割合です。


 同じ13歳の子を持つ親であっても,家庭の年収階層によって,悩みの率が異なっています。おおむね,どの悩みも貧困層で多いようで,14項目のうち8項目の率が,年収200万未満の層で最も高くなっています(アミかけ)。

 ところで私が注目したいのは,赤字の項目の傾向です。子どもの反抗的態度,いじめ被害,不登校,病気のことで悩んでいる親の率が,貧困層ほど高くなるという,ほぼリニアな傾向があるのです。学力についてはこういうデータをよく見かけますが,問題行動についてもこうしたクリアーな傾向が出るとは,ちょっと驚きです。

 いじめ被害と不登校で悩んでいる親の率を,折れ線グラフにしておきましょう。


 いじめ被害や不登校の率は,貧困層の子どもほど高いことをうかがわせるデータです。おそらく学校での友達との軋轢に関する原因が多いと思いますが,経済的理由からスマホなどが持てず,つまはじきにされてしまうのでしょうか。

 高校生にもなれば自分でバイトしてカバーすることも可能ですが,中学生ではそれも不可。いわゆる「スクール・カースト」の決定要因として,家庭の経済状況が関与する度合も大きいと思われます。

 なお,上記の調査に回答した,13歳の保護者のサンプル数によると,年収200未満は5.4%,200万以上400万未満が12.1%,400万以上600万未満が26.1%,600万以上800未満が25.1%,800万以上が31.3%,という分布です(年収不明は除外)。

 年収200万未満の貧困層は,20人に1人です。まさに「豊かさの中の(少数の)貧困」という地位に置かれているわけですが,それだけに,この層が抱く相対的剥奪感は相当なものでしょう。それは,多感な思春期の子どもの自我を傷つけるのに十分です。

 師匠の松本良夫先生は,大都市・東京のデータをもとに,豊かな地区の中の貧困家庭から非行少年が多出する傾向を明らかにされています。これなども,上記の心理効果から解釈される現象といえそうです。この伝でいうと,貧困といじめ被害・不登校の関連は,東京のような大都市に限ったら,もっとクリアーに出るのではないかと推測されます。「豊かさの中の(少数の)貧困」の地位にある家庭には,支援の重点が置かれるべきでしょう。

 学力のみならず,問題行動にも社会的規定性があることは,押さえておかねばならない事実です。