「保育所落ちたの私だ!」ブログが政治を動かしつつありますが,「保育士辞めたの私だ!」というツイッター投稿にも関心を持ちます。
保育士の待遇が劣悪なのは,よく知られていること。保育所の設置には,土地・建物・ヒトが必要ですが,一番不足しているのは最後の「ヒト」ではないでしょうか。都市部では,「空きがあるのに入れない」事態になっているようです。
http://www.asahi.com/articles/DA3S12263463.html
保育士が来てくれない問題と同時に,出ていく(辞めてしまう)問題も大きいでしょう。「保育士辞めたの私だ!」という人は,統計でみてどれくらいいるのか。今回は,保育士の離職率の計算結果をご覧に入れようと思います。
2014年の厚労省『社会福祉施設等調査』には,調査時点の前の1年間における,常勤保育士の離職者数が計上されています。2013年10月~14年9月の離職者数です。その数,3万2406人。1年間で,3万人超の常勤保育士が辞めているのですね。結婚・出産による離職も多いでしょうが。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/23-22.html
この期間の始点(2013年10月時点)の常勤保育士数は32万196人。よって,上記の1年間における,常勤保育士の離職率は,32406/320196=10.1%と算出されます。ちょうど1割です。最近では,常勤保育士の10人に1人が,1年間で辞めると。
この離職率を公私別に出すと,公立は5.4%,私立は12.0%となります。公私では,保育士の離職率の倍以上の差があります。
これは全国の数値ですが,都道府県別に計算することもできます。常勤保育士の離職率が高いのは,どの県でしょう。下表は,計算結果の一覧です。黄色マークは最高値,青色マークは最低値,赤字は上位5位を意味します。*政令指定都市の分は,当該市がある県に含めて計算しています。
まず総数をみると,常勤保育士の離職率は全国では10.1%ですが,県別にみると5.4%から14.6%までのレインヂが観察されます。鳥取は,保育士の離職率が低いですねえ。公立・私立の別でみても,軒並み最下位です。
離職率トップの徳島は,公立の離職率が高くなっています(17.3%)。私立より公立が高い珍しい県ですが,何か特殊事情でもあったのでしょうか。
量的に多い私立保育所でみると,こちらは,都市部で離職率が高い傾向がみられます。トップは奈良で,埼玉,神奈川,大阪といった都市県が赤色になっています。保育所不足が深刻で,定員をかなり超えた幼児を収容している保育所も少なくないだけに,業務負担も大きいゆえでしょうか。都市部では,保護者からの要求が厳しい,ということもありそうです。
これは想像ですが,統計で可視化される事態があります。私立保育所の常勤保育士の離職率が,保育士の給与水準と相関していることです。後者は,保育士の年収が全職業の何倍かという倍率で,2014年11月23日の記事にて,県別の値を出しました。
この指標を横軸,先ほど計算した私立の保育士の離職率を縦軸にとった座標上に,47都道府県を配置すると,下図のようになります。保育士の給与水準と離職率の相関図です。
明瞭ではないですが,保育士給与の相対水準が低い県ほど,私立の保育士の離職率が高い傾向にあります。相関係数は-0.41318で,1%水準で有意です。
大都市・東京では,保育士の給与は全職業の半分ちょいですが,こうした状況は,保育士らの不満を高めるのに十分でしょう。図の左上には,こういう県が位置しています。*福島は,震災という特殊事情を考慮する必要があるかと思います。
マクロ統計から明らかになる,保育士の給与と離職率の相関。保育士の給与が月額1万円アップされることになりましたが,これで問題が解決されることにはなりますまい。保育士の「やりがい感情」によりかかっているばかりでは,いつ保育所内で悲劇が起きるか分かりません。やりがい疲労が内に向くのが離職としたら,外に向くのは・・・。考えるだけでも,恐ろしいこと。
http://tmaita77.blogspot.jp/2016/03/blog-post_6.html
私が考えているのは,保育士の待遇改善のための公的な基金を設けること。非利用者から反発が出ること必至ですが,保育サービスを充実できるか否かは,社会の維持存続にかかわることです。上の世代は誰もが,老後は下の世代の世話になります。わが国の人口ピラミッドは「下」がやせ細っていますが,この部分に養分(資源)を傾斜配分し,太らせることが不可避です。
保育士の待遇改善は,その政策の一環に他なりません。