2017年4月28日金曜日

大学生の奨学金利用率の地域差

 日本学生支援機構が,大学ごとに学生の奨学金利用率や返済遅延率が分かる資料を公開してくれました。
https://www.sas.jasso.go.jp/ac/HenkanJohoServlet

 個々の大学ごとに検索をかけて逐一データを呼び出さないといけませんが,私は全国の700余りの大学のデータを採取し,データベースを作る作業をしました。昨日,それがようやく完了したところです。


 苦労をねぎらってくれた人もいましたが,結構しんどかった。おカネのある研究者は,こういう作業は助手やバイトにさせるんでしょうが,私は自前でしないといけません。
https://twitter.com/never_be_a_pm/status/857530842138071040

 これを使って,奨学金利用率や返済遅延率の分布などを出せますが,私がまず明らかにしたいのは,奨学金の利用率の地域差です。おそらく,所得水準の低い地方の大学の学生は,利用率が高いのではないか。借金を背負って学んでいる学生が多いのではないか。地方出身者なら,誰もが抱く仮説でしょう。

 上記のデータベースでは,各大学の学部学生数(2015年度)と,そのうち奨学金の貸与を受けた者の数を打ち込んでいます。これを県ごとに集計し,割り算をすることで,大学生の奨学金利用率を都道府県別に計算できます。分析対象は,全国729大学の学生280万9526人です。

 東京でいうと,2015年度の学部学生は100万9683人,このうち奨学金を借りた学生は24万2345人ですので,奨学金の利用率は24.0%となります。およそ4人に1人。しかし,私の郷里の鹿児島だと利用率は55.0%と半分を超えます。

 違うもんですねえ。私は東京学芸大学と鹿児島大学で学生時代を過ごしましたが,後者のほうが奨学金を借りている学生が多かったであろうことは,肌感覚でも分かります。

 では,他の県はどうでしょう。同じやり方で奨学金の利用率を出し,高い順に並べたランキング表にしてみました。断っておきますが,これは大学の所在地に基づくデータです。


 どうでしょう。左上をみると,トップは青森の63.05となっています。この県の大学生は,6割が奨学金を借りて学んでいると。2位は沖縄で,そこから7位までは見事に九州県で占められています。うーん。

 対して右下をみると,首都圏や中部の県では,奨学金利用率が相対的に低くなっていますね。最低は千葉の22.3%で,青森の約3分の1です。

 地図に落としてみると,地域性が際立ちます。濃い色は50%超ですが,九州は福岡の除いて軒並み濃い色で染まっています。


 むーん。各県の所得水準とリンクしているような気がしますねえ。青森や沖縄は所得低いですし。大学生の親世代(45~54歳)の男性の平均年収を県別に算出し,上表の奨学金利用率との相関をとってみました。前者の年収は,総務省『就業構造基本調査』(2012年)のデータをもとに計算したものです。


 予想通り,強い相関関係が検出されました。年収が低い県ほど学生の奨学金利用率が高いという,マイナスの相関関係です。相関係数は-0.8近くにもなります。所得水準の低い県では,借金を負って学んでいる学生が多し。

 まあ奨学金というのは,貧しい家庭の学生に貸与されるものですから,当然といえばそうです。上記の相関図は,地方の学生に対する高等教育機会の提供に,奨学金が一役買っていることの証左ともいえます。奨学金がなかったら,高等教育機会の地域格差は凄まじいものになるでしょう。

 しかしご存知のように,奨学金とは「名ばかり」で,実質は返済義務のあるローンです。近年は有利子化も進んでいます。借りた奨学金を返せず,人生に破綻をきたす学生も少なくない。上記の図は,そうしたリスクにさらされる頻度が,地方の学生ほど高いことを示しています。

 高等教育の機会均等を具現するには,奨学金を貸し付けるのではなく,大学の学費の減免枠を増やすのがいいと,私は前から思っています。今の高校では,一定の所得以下の家庭の生徒には,就学支援金が支給されますが,これを大学に適用するのもいいでしょう。

 大学の授業料無償化がいわれていますが,一律にこれをやると,富裕層を優遇することになりかねない(金持ちだらけの大学もありますので)。やるなら,所得制限を設けるべきでしょうね。

 それと,地域の所得水準(物価)を勘案し,大学の学費に傾斜がつけられてもいいでしょう。私が学んだ東京学芸大学も鹿児島大学も学費は同じ。しかるに,東京と鹿児島では,親世代の年収に1.5倍以上の開きがある(上記散布図の横軸)。前から,これはおかしいと感じていました。

 今回のデータは,奨学金の順機能を言いたいがために出したのではありません。地方には,無理をしてリスクを負って学んでいる学生が多い。これを言いたかったからです。

1 件のコメント:

  1. はじめまして。
    浪人中の息子に来年あわよくば大学に入れた際に奨学金を借りてもらうかどうか悩ましい保護者の1人です。
    分かり易い図表で見せて頂きありがとうございます。
    私も先生と同じようにこの751大学のデータを拾って集計を試みております。

    で、その中で上記の利用率について、些細なことですが、1点。
    先生の集計では千葉県が利用率最下位となっていますが、私の計算ではこの千葉県の値に放送大学の分が入っているんじゃないかと思います。
    放送大学の2015年度の学生数は57,850人で、貸与者は71人であり、利用率は0.1%となります。これがかなり千葉県の値を押し下げているかと存じます。
    大学所在値をどこと見るかで多少値に差が出ますが、私の計算では放送大学を抜いた千葉県の利用率は38.5%となりました。

    放送大学は通信制専門の大学で、今回データは公表された大学では星槎大学とサイバー大学も同様に通信制専門の大学となっています。
    本部は必ずどこかの県に設置されますが、学生がその県に通っているということではないので、地域的分析をする際にはこれら通信制の大学を外した方が良いのでは、と思いました。
    (ただ、ならば慶大や日大のような通信制を併設した大学の数値はどうするのか、という問題は依然残りますが…)

    これら通信制専業の大学は奨学金の利用率は低いです。同時に、廉価に高等教育を普及させるには、通信制という手段も重要なのかと思う数値でもありました。

    差し出がましことを書きましたが、ご参考までに。

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