2019年8月26日月曜日

居眠りの日米比較

 国際化が進んでいますが,日本にきた留学生が驚くのは,学生が教室で居眠りをしていることです。

 私も大学で10年間教えた身ですが,学生の居眠りにはしょっちゅう遭遇しました。でも,咎めることはしませんでした。授業に興味が持てないのだろう,バイトで疲れているのだろう,授業妨害ではない…。こう解釈していました。日本の大学には,こういう(やさしい)ティーチャーが多いと思います。私語や無断退出は,かなり厳しく取り締まっていましたが。

 しかし欧米はさにあらず。授業中に居眠りなんてしたら,教室から追い出されます。日本では職場で居眠りをする人もいますが,「母国だったらクビになりかねない」と,異国の人の目には奇異に映るようです。

 2017年に国立青少年教育振興機構が実施した高校生の国際比較調査で,授業中に居眠りをする頻度を尋ねています。これは面白い。日本とアメリカの生徒の回答分布をグラフにすると,以下のごとし。
http://www.niye.go.jp/kenkyu_houkoku/contents/detail/i/114/


 同じ高校生ですが,回答はかなり違っています。「よくする」+「時々する」の割合は,日本では63.1%,アメリカでは17.2%です。日本の生徒の居眠り率は,アメリカの3倍以上なり。

 日本の生徒は,部活の朝練や深夜まで及ぶ塾通いで疲れ切っているのでしょうか。

 生徒の生活や教師の厳しさの違いで片付けるのは簡単ですが,もっと大きな国民性に照らしていうと,日本では,勉強・仕事をする時と休む時,「オン・オフ」の境界が曖昧であることによるでしょうね。

 これは高校生のデータですが,サラリーマンにアンケートをとっても,同じ結果になるのではないでしょうか。海外では,定められた時間内に集中して課業を済ませ,定時にさっさと帰宅します。残業は無能の証です。日本でよく見られる「忙しい」アピールは,自分は無能,ないしはガツガツ働かないと生活できない哀れな人,という公言に他なりません。労働生産性を高める上でも,見習いたいものです。

 なお,体質が夜型になりやすい青年期の生徒に早寝早起きを強いるのは好ましくない,という指摘もあります。アメリカのシアトル州で,高校の始業時間を7時50分から8時45分に遅らせたところ,生徒の睡眠時間が増え,学業成績も向上した,というデータが出ています。
https://diamond.jp/articles/-/212266

 1時間遅らせるだけで,効果が出るのですね。公立学校の場合,休業日を決めるのは設置者の自治体ですが,始業時間をどうするかは各学校の任意です(学校教育法施行規則60条)。ちょっとばかり工夫することで,授業での生徒の集中力も増すかもしれません。朝のラッシュも緩和されるでしょう。

 定型の学校運営にこだわる必要はありますまい。宿題,定期テスト,クラス担任廃止等,学校の定型を覆している公立中学校が千代田区にあるそうですが,学校(校長)の裁量って大きいのです。

 教員免許状がなくても,校長にはなれます。学校経営に敏腕を振るう,面白い人が増えるといいと思います。始業は朝の10時なんてのもいい。始業時間に幅を持たせたいもの。それが効果を持ち得るのは,上記の米国の実験でも確かめられています。