2019年8月30日金曜日

学ばない日本人

 教育は子ども期で終わるものではありません。人は生涯にわたって学び続ける存在です。

 社会の変化が速く,常に学んでそれに追いつかないといけない,また寿命の延びにより生じた余暇を,学習という能動的な形で使いたいもの。現代は生涯学習の時代であり,それを支持する社会的な条件も多いのです。

 本ブログで,この趣旨のことを何回書いたか分かりません。タイトルのごとく,日本人は大人になってからは学ばないからです。それを実証するデータが,また出てきてしまいました。パーソル総合研究所が,今年の2~3月に実施した「APAC就業実態・成長意識調査」というものです。
https://rc.persol-group.co.jp/research/activity/data/apac_2019.html

 アジア太平洋各国の労働者の意識や成長などを明らかにした調査で,日本を含む14か国の20~69歳の就業者が調査対象となっています。

 衝撃的な事実が露わになったのは,「あなたが自分の成長を目的として行っている,勤務先以外での学習や自己啓発活動について教えてください」という問いへの回答によってです。読書,セミナー,大学・大学院への在学等,11の選択肢を設け,当てはまるものを全て選んでもらう形式ですが,「とくに何も行っていない」を選んだ人のパーセンテージです。この数値が高い順に,14か国を並べると以下のごとし。


 プライベートの時間において,自身の成長を目的とした学習や自己啓発を一切していない。日本の労働者では,こういう人が全体の46.3%おり,他国と比してダントツで高くなっています。

 今から7年前,2012年の国勢成人力調査(PIAAC 2012)でも,類似のことが明らかになったのですが,今になっても事態は変わってないようです。

 ヤバいですねえ。日本人は,勉強は子ども期の学校でおしまいなのでしょうか。丸抱えの終身雇用・年功賃金が支配的である故,自分を磨いて,よりよい待遇を求めて組織を渡り歩くなんてことは少ないので,こういう結果になるのでしょうか。

 対して,ベトナム,インドネシア,インド,タイといった,アジア諸国の労働者は学習の実施率が高くなっています。インドネシアやインドでは,成人労働者の2割以上が,大学・大学院ないしは専門学校といった学校で学んでいる,と回答しています。仕事と教育の間を往来する,リカレント教育も普及を見ているようです。日本は4.6%と最下位なり。

 昨日,上記のグラフをツイッターで流したところ,「ひょええ」と多くの人が見てくださっています。しかし,「日本人は仕事時間が長いので当たり前では?」というリプも目につきます。仕事に疲れ切って,勉強なんてする暇(いとま)はないと。

 本当にそうでしょうか。上記のパーソル研究所の調査では,対象となった労働者の週あたりの労働時間もはじき出しています。労働時間を横軸,学ばない労働者の率(上記グラフ)を縦軸にとった座標上に,14か国を配置したグラフにしましょう。もう一ひねり加え,ドットの大きさで,国民1人あたりのGDP額を表します。経済発展,豊かさのレベルです。


 おや,日本の労働時間は長いかと思いきや,14か国では,一番短いですね。パートで働く女性の影響かと思われます。サンプルは各国1000人で,性・年齢均等割り当てとのことですので,女性サンプルに偏している,というような歪みは正されています。

 労働時間と,学ばない労働者の率はプラスの相関かと予想しましたが,そうではありません。むしろ,マイナスの相関です。右下のアジア諸国では,労働時間は長いものの,学ぶ人の率も高し。個人単位でみればどうかは分かりませんが,「仕事時間が長いから学べないのだ」と声高に言うのは,ちょっと恥ずかしい気がします。

 男性の家事にしてもそう。仕事時間で男性を群分けし,家事時間の平均を比べても,あまり変わらないのですよね。日本の男性は仕事時間が長いから家事をしない(できない)。この見方が正しいという保証はなし。定時に上がっても,家庭ではなく酒場に足が向く「フラリーマン」も少なくないわけでして…。

 ドットのサイズをみると,右下の諸国は小さいものの,よく働き,よく学ぶ「勢いのある国」といえましょうか。10年後,20年後には,日本の1人当たりGDPを凌いでいるかもしれないですね。

 日本は教育大国と言われ,子どもは本当によく勉強するが,大人はさにあらず。この断絶は非常に大きい。国際学力調査の結果はいつも上位で,潜在能力はあるのだから,大人が学べば,国はもっとよくなるのでは,と異国の人は感じるかもしれません。

 そういえば,2012年の国勢成人力調査(PIAAC 2012)の結果が公表された時期,「日本の大人の学力世界一!」なんてお祭り騒ぎになりましたっけ。しかるに,「新しいことを学ぶのが好き」という好奇心の軸も加味してみると,違った側面が浮き上がります。

 アラフォー年代を取り出して,数学の学力と知的好奇心の布置図を描いてみます。下の図をみてください。


 日本の働き盛りは,数学の学力(横軸)はトップですが,未知のことを学ぶのを好む知的好奇心(縦軸)は,韓国に次いで低くなっています。メディアでは横軸だけが切り取られて,浮かれたムードが漂いましたが,未知なる知識への渇望も加えた2次元にしてみると,「うーん」となってしまいます。

 長い目で見ると縦軸が大事なんですよね。変動の激しい時代,未知のことが続々と出てきますが,それを捕まえていこうという気構えですので。日本と韓国は,仲良く右下に位置しています。学力は高いが,好奇心は低い。子ども期の受験勉強で,勉強は苦行ってい刷り込みがされているのでしょうか。

 人生100年の時代,最初の20年間(児童期~青年期)だけガリガリと勉強し,あとの80年を思考停止状態で生きるなんて愚の骨頂。子ども期の学校教育で教えるべきは,生涯にわたって学び続けようという態度です。