2019年8月19日月曜日

高齢期の働き方

 昨日の毎日新聞に「60歳以上労災死傷者急増,4分の1占める,転倒,腰痛,サービス業で」という記事が出ています。
https://mainichi.jp/articles/20190817/k00/00m/040/232000c

 高齢化が進む中,体力の弱った高齢の就業者が増えているためです。人手不足もそれを後押ししています。池袋で,70代のタクシー運転手が運転中に意識を失い,ガードレールに衝突し死亡する事故が起きました(乗客は無事)。ドライバー不足で,高齢の乗務員を雇用せざるを得ない,業界の事情もあるそうです。

 これから高齢の就業者が増えていきますが,彼らはどういう働き方をしているのでしょう。自分が見聞きした経験からイメージするのは容易いですが,客観的なデータで固めてみようと思います。官庁統計を紐解けばすぐ分かることですが,この点はあまり明らかにされてないようです。

 基幹統計の『国勢調査』から,働く人の従業地位や職業を知ることができます。65歳以上の就業者を取り出し,分布をとってみましょう。以下に掲げるのは,従業地位と職業が共に分かる,719万3606人の高齢就業者のデータです。2015年の『国勢調査』によります。


 従業地位をみると,非正規雇用が32.7%と最も多くなっています。3人に1人です。その次がフリーランス(雇人のない業主)で23.2%となっています。就業者全体の分布とはだいぶ違いますね。高齢層では,正社員は14.6%しかいません。

 次に職業をみると,農林漁業が15.1%で最多です。2位はサービス職,3位は販売職ですか。管理職・専門技術職・事務職のホワイトカラーは4人に1人で,残りは体を動かす現業職であると。

 上記の2つの変数をクロスさせると,事態がより立体的に分かります。以下の表は,各セルに該当する人数を示したものです。65歳以上の就業者全体(719万3606人)を1万人とした場合の人数です。


 「5 × 12」の60のセルがありますが,上位5位には黄色マークを付けました。最も多いのは,フリーランスの農林漁業ですね。高齢就業者全体の7.8%,13人に1人です。年金の足しに,家庭菜園をやっているような人でしょうか。

 それに次ぐのは非正規雇用の運搬・清掃職,サービス職となっています。これは日々の生活においてよく目にするところです。会社の経営(管理)に携わる役員・業主は,およそ5.8%となっています。

 おそらく事務職を希望する人が多いのでしょうが,正規の事務職は全体の3.2%,非正規を合わせては6.7%しかいません。ハロワで事務職の求人を検索しても,ヒットがほぼ皆無であるのはよく言われること。

 なお地域差もあります。上記のデータは,高齢者が多い地方の傾向を反映したものかと思いますが,都市型の働き方のケースとして,東京都のデータをご覧に入れましょう。従業地位と職業の両方が分かる,68万412人のデータです。


 全国データでは,フリーランスの農林漁業が最多でしたが,東京都だと,非正規の運搬・清掃業が最も多くなっています。駅の清掃とか,需要がありますからね。会社を経営する管理職も,全国データより多し。非正規のサービス職とは,マンションや駐車場の管理人などでしょう。これも都市部では多し。

 以上,従業地位と職業を手掛かりに,働く高齢者のすがたをラフに描いてみましたが,参考になりましたでしょうか。ざっとまとめると,地方ではフリーランスの一次産業,都市部では非正規の清掃業・サービス職が多い,というところです。

 デスクワークが多くなったといいますが,高齢層に限ると,体を動かす現業職がマジョリティであるのが知られます。冒頭の毎日新聞の記事で,高齢者の労災急増が報じられていますが,その大半はこういう業種で起きています(サービス職等)。

 ホワイトカラーを希望しつつもそれが叶わず,不慣れな肉体労働を始める高齢者が多いのですが,無理は禁物。職場においても,高齢就業者の増加に合わせた,働き方改革が要請されます。お店で,辛そうな表情をしてレジに立っているシニアスタッフを見かけますが,座って勤務してもいい。屋外労働者用の空調服や,介護士向けのアシストスーツなどのテクノロジーも活用すべし。

 今朝の日経新聞に,無人店舗の普及を伝える記事がありましたが,こういうニュースを見ると,働く人の割合が国民の半分未満でも社会が回るようになるのかな,という期待も持たれます。日本は高齢者の就業率が高いのですが,日本と同様,かなり高齢化が進んでいるドイツやイタリアはさにあらず。この違いは,最新のテクノロジーをどれほど活用できているか,サービスの質をどれほど下げることができているか,によると思います。
https://twitter.com/tmaita77/status/1163354878451695616

 あるいは,移民をたくさん受け入れていると。日本は外国人の受け入れ数が4位,世界移民大国だそうですが,多文化共生の在り方を考えないといけないステージにきています。

 日本より少ない労働力で社会を回している国は数多し。国民の多数が死ぬまで働かないといけない社会になるかどうかは,まだ未知数です。今回お見せしたデータは,今となってはもう古い2015年時点のもの。あまり悲観的にならないよう。