2019年8月5日月曜日

独り身の女性の貧困

 ロスジェネは現在40代前半で,この世代が高齢期に達する20年後はどうなるのかと,悲観的な予測が飛び交っています。不遇なまま放置されてきた世代です。年金など碌にもらえない人が多し。私もそうです。

 目を凝らしてみると,ロスジェネと同じく先行きが心配な人たちがいます。夫のいない,独り身の女性です。女性は男性に経済的に扶養されるべしという考えが根強い日本では,女性が自身の収入で自活する生き方は想定されていません。

 そんなことを考えるのは悪いことだと言わんばかりに,給与にはジェンダー差がつけられています。「つまらんことを考えないで,家事・育児に専念しろ」とね。明瞭な性役割分業で社会が築かれてきた経緯があり,今でもそれが残存しています。

 しかし時代は変わり,結婚しない女性が増えてきました。40歳,50歳を過ぎてもです。45~54歳(アラフィフ年代)の女性人口,そのうちの未婚者数の長期推移を跡付けると,下表のようになります。『国勢調査』の時系列統計より採取しました。2017年の数値は,同年の『就業構造基本調査』によります。


 戦前期では,アラフィフの未婚女性は4万人ほどしかおらず,同年代の女性に占める比率は2%,50人に1人もいませんでした。お見合いで,強制的に結婚させられていた時代ですから。

 しかし時代を下るにつれぐんぐん増えてきて,1995年に50万人を越え,2015年には100万人を突破,2017年では126万人に達しています。今では,アラフィフ女性の14.4%,7人に1人が結婚経験のない未婚者です。

 ここまで増えてくると,もはやネグリジブル・スモールではありません。夫に依存せず,自活しようと奮闘するも,長らく続いてきた通念や制度に阻まれ,貧困状態におかれる女性の問題がクローズアップされてくるのは道理です。今日の現代ビジネスのウェブサイトで,「非正規・無職の女性たちをずっと無視してきた日本社会の罪」という記事が出ています。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/66225

 「非正規・無業の女性」というと,家計補助のパートや専業主婦をしている妻を思い浮かべるでしょうが,夫のいる有配偶女性と未婚女性では,意味合いが違います。後者の場合,こういう状況に置かれること=「貧困」でしょう。親と同居しているとか,資産があるとか,例外はあるでしょうけど。

 上表によると,2017年のアラフィフ未婚女性は125万6100人です。このうちの59万7000人(47.5%)が,非正規雇用者もしくは無業者となっています。アラフィフ未婚女性の半分近くが,非正規・無業であると。

 この値には地域差もあります。47都道府県別の率を高い順に並べると,以下のようになります。


 トップは沖縄で61.0%,15の府県で50%を超えています。女性が独り身でやっていくのは辛い地域といえましょうか。

 こういう有様ですので,アラフィフ未婚女性の稼ぎも推して知るべし。働いている人の年間所得分布(税込み)から中央値を計算すると,283.8万円となります。300万円に届かないですね。地域別にみると,もっと悲惨な値が出てきます。


 300万円を越えるのは8都県しかありません。富山と福井が入っているのは,正社員率が高いからでしょう。

 その他の県はこのラインを割り,半分の県が250万円を下回っています。言葉はキツイですが,ワーキングプアの部類です(沖縄と青森は200万未満)。夫のいない未婚者なんで,就業調整をしているとは考えられません。独り身を養うべく,フルタイム就労をしている人が大半でしょう。

 これは,幸運にも正規雇用の職に就けている人も入ったデータです。非正規雇用者に絞ると,目も当てられない惨状になります。東京を除く全県が200万未満です。2番目の表にあるように,アラフィフ未婚女性の半分が非正規・無業であることを思うと,問題の深刻さが分かるでしょう。
https://twitter.com/tmaita77/status/1148162055813263360

 女性が自活するって,本当に大変なんだなと思います。女性の自活なんて想定していない,社会の通念や制度の問題です。昔はネグリジブル・スモールとして問題化しなかったのですが,現在ではそうはいきません。最初の表でみたように,夫のいない独り身の女性はどんどん増え,今後もそうなるのですから。

 まずは,最低賃金の遵守です。フルタイムで働いて,年間の所得(税引き前!)が200万円に満たないというのは,それが守られてない証拠です。言わずもがな,賃金のジェンダー差の是正も必要。

 そうなれば,結婚に際して,女性が相手の男性に高収入を期待せざるを得ない度合いも下がります。自分も加勢すればいいのですから。未婚化・少子化の壁も取り払われます。貧困への転落を恐れ,夫のDVを耐え忍ぶなんてことも少なくなる。

 そもそも「結婚はオワコン」とまで言われる時代。こういう時代にあって,今の状況を放置しておくならば,大変なことになるでしょう。ロスジェネは特定世代の問題ですが,独り身の女性はこれから常に増えてくるのですから。社会を揺るがす不安因子として,累積されることがあってはなりません。