2011年9月14日水曜日

教員の勤務時間の国際比較

 本日の朝日新聞に,「日本の先生,働き過ぎ?事務作業長く OECD調査」と題する記事が載っていました。それによると,わが国の教員の勤務時間は国際的にみても長く,その多くは事務作業に食われているとのことです。
http://www.asahi.com/national/update/0913/TKY201109130560.html

 日本の教員の勤務時間が長いことは想像できますが,それは,事務作業の長さによるものなのですねえ。教員が己の専門的力量を発揮する場は,子どもに知識や技能を授ける「授業」であることを思うと,これはいかがなものか,という気がします。

 上記の記事が参照しているのは,OECDが毎年発刊している『Education at a Glance』の数字であると思われます。OECDのホームページで閲覧できる最新の資料は,2010年版のものです。この資料から,2008年の教員の勤務時間を,主な国について知ることができます。
http://www.oecd.org/document/52/0,3343,en_2649_39263238_45897844_1_1_1_1,00.html#d
 
 上記サイトの「IndicatorD4:How much time do teachers spend teaching?」という表には,OECD加盟国32か国について,教員の年間勤務時間と,そのうちの授業に費やした時間が掲載されています。小学校教員の場合,以下のようになっています。


 データが不備の箇所も目立ちますが,わが国のおおよその位置を知るには十分です。わが国の年間勤務時間は1,899時間で,OECD平均を大きく上回っています。アメリカに次いで高い水準です。その一方で,授業に費やした時間は,平均値を下回っています。わが国の場合,授業に充てた時間が総勤務時間に占める比率は37.3%です。となると,残りの約6割の時間は,授業とは別の事務作業などに費やされていることになります。冒頭の新聞記事がいうように,わが国の教員の勤務時間は,事務作業などによって押し上げられていることがうかがわれます。

 わが国と対極の位置にあるのが,スコットランドです。この国では,総勤務時間が短く(1,365時間),かつ,その62.6%が授業時間によって占められています。「教員の仕事は授業!」という割り切りが強いようです。スペインやポルトガルといった南欧諸国も,このタイプに近いようです。

 上表の統計をグラフにすると,各国の性格(タイプ)が把握しやすくなります。私は,総勤務時間と授業時間の両方が分かる16か国を,マトリックスの上に位置づけてみました。下図がそれです。横軸に総勤務時間,縦軸に授業時間をとったマトリックス上に,各国がプロットされています。点線は,OECDの平均値です。


 右下には,授業以外の時間(事務など)が総勤務時間に占める比重が比較的大きい国が位置します。日本は,このゾーンに位置しています。左上には,授業時間の比重が大きい国が位置します。先ほど触れた,スコットランドや南欧の2国が位置しています。左下は,総勤務時間も授業時間も短い,「ゆとり型」といえましょうか。右上は,その反対です。

 いかがでしょうか。北欧諸国の多くは,日本のように,授業以外の時間のウェイトが比較的高いようです。ハンガリーは,授業時間の比率が32.8%で,わが国よりも低くなっています。これらの国では,教員が授業以外に費やす時間というのは,どういうものなのかしらん。日本のように事務主体ではなく,地域活動などがメインだったりして…

 ひとまず,わが国の国際的な位置が明らかになりました。むろん,こうした状況認識は,当局も持っているところです。2008年7月に策定された教育振興基本計画は,「教員が,授業等により一人一人の子どもに向き合う環境をつくる」べく,「教職員配置の適正化や外部人材の活用,教育現場のICT化,事務の外部化等に総合的に取り組む」ことを明言しています。

 結構なことだと思います。私としては,日本の位置が,上図の左上ではなく,右下のほうにシフトしてほしいと思います。右上のアメリカ型に近づくことがありませんように。