2012年2月24日金曜日

刑務所人口率

北沢あずささんの『実録!女子刑務所のヒミツ』(二見書房,2005年)を読んでいます。刑務所の体験記の類はよく出ているのですが,女子刑務所のものは珍しいので,手に取ってみました。
http://www.futami.co.jp/book.php?isbn=9784576052298

 女子受刑者の特徴,女子刑務所ならではの陰湿なイジメ,堀の中で会ったスゴイ女囚などについて,実体験に依拠して記述されています。また,自身が編み出した,刑務所生活を楽しむためのちょっとした工夫(特性レシピの作り方,外部との通信手段の裏ワザ)も紹介されており,なかなか笑える内容になっています。

 私は社会病理学を専攻しているので,こういう体験記も努めて読むようにしています。面白そうな本を見つけたら,近所の図書館で検索して,なければ取り寄せます。刑務所体験,少年院体験,海外危険旅行体験,裏ビジネスの極意,潜入裏社会・・・こんな類の本ばかりリクエストしているので,図書館の人から,さぞ変な人と思われていることでしょう。

 ちなみに,彩図社という出版社が,この種のアンダーグランド本を多く出しています。この会社は,一般人に対して,書籍化のための原稿を広く募っています。社会の片隅に埋もれている貴重な体験を掘り起こすことを意図しているのでしょう。常人にはなかなか得難い体験をお持ちの方は,どしどし応募されるとよいかと思います。*私は,この出版社の回し者ではありません。
http://www.saiz.co.jp/

 さて,上記の北沢さんの本を読んでいて,刑務所に入っている人はどれくらいいるのかという,素朴な疑問が沸きました。法務省『平成23年版・犯罪白書』によると,2010年末の時点において,刑務所に服役している懲役受刑者は63,581人だそうです(下記サイトの資料2-10参照)。この数の過去半世紀の推移をたどると,下図のようです。お勤めの期間(刑期)の組成も分かるようにしました。
http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/58/nfm/mokuji.html


 刑務所人口は,高度経済成長期の終わり頃まで減少し,その後増加し,1980年代末のバブル期に減少し,90年代以降また増えています。景気と無関係ではないようです。刑務所人口は2006年に70,164人のピークを迎え,最近は少し減り,2010年の63,581人に至っています。

 2010年の刑務所人口は,半世紀前の1960年よりも少し多い程度です。しかるに,刑期の組成が大きく変化しています。時代と共に,長期の受刑者の比重が増してきています。左上の組成図をみると,1960年では「1年以下」の受刑者が全体の28.4%を占めていましたが,2010年ではそれは4.4%しかいません。代わって,「5年超」の長期受刑者の比率が,この半世紀の間に13.3%から25.6%へと倍近くに増えています。厳罰化を求める世論あってのことと思いますが,長期受刑者を次から次に送り込まれる刑務所側の負担増という問題も看過できません。

 なお,2010年の刑務所人口を同年の有責人口(14歳以上)で除すと,1万人あたり5.7人となります。国民1,754人につき1人が,堀の中の住人ということです。この数字を刑務所人口率と呼ぶことにしましょう。

 有責人口1万人あたりの刑務所人口率は,1960年が9.1,1970年が4.9,1980年が4.6,1990年が3.9,2000年が4.5,2010年が5.7,です。1990年以降上昇していますが,半世紀前の1960年の率よりは低い水準です。堀の中の住人の比率は,昔のほうが高かったのですね。

 次に,刑務所人口の年齢構成をみてみましょう。刑務所は高齢者だらけで,福祉施設のような状態になっていると聞くことがありますが,本当なのかしらん。法務省が毎年出している『矯正統計年報』から,年齢層別の刑務所人口を知ることができます。この半世紀の変化を,5年刻みで跡づけてみました。


 昔は20代が多かったのですが,今日では30代や40代の比重が高くなっています。2010年では,30代が全体の26.8%と最多を占めます。・・・受刑者4人のうち1人は,私と同じ年齢層です。

 なお,過去からの伸び幅という点でいうと,50歳以上の高齢層が最も大きいようです。50歳以上の受刑者の比率は,1960年では5.5%でしたが,2010年では31.8%にもなっています。60歳以上の比率は7.8%です。刑務所人口の高齢化は確かに進行しています。高齢者の場合,出所後の生活が厳しいことから,何度もムショに舞い戻ってくる累犯者も少なくないことでしょう。

 最後に,各年齢層の受刑者数を当該年齢層の人口で除して,年齢層別の刑務所人口率を計算してみます。堀の中の住人の比率は,どの年齢層で高いのでしょう。まあ,上図の結果から,若年層で高いことは予測できますが,数字を出してみようと思います。1960年からの5年刻みのデータを,上から俯瞰した図をお見せします。*17歳以下の刑務所人口率は,14~17歳人口をベースにして算出しました。


 1960年の20代の箇所に,高率ゾーンが見受けられます。黒色は,刑務所人口率が1万人あたり20人(500人に1人)を超える,という意味です。社会の激変期にあった当時,若年層の犯罪率が高かったことによります。

 その後,目立った高率ゾーンは消えますが,最近になって,20代後半から30代前半のあたりに,緑色の「やや高」のゾーンができています。昨今の不況により,この年齢層の犯罪率が上がってきているためです。2010年でみると,刑務所人口率が最も高い年齢層は26~29歳で,1万人あたり10.6人となっています。先ほどみた,全体の率(5.7)のほぼ倍です。

 最近になって刑務所人口率が上がってきていること,そのピークは若年層にあることが分かりました。次に興味が持たれるのは,どういう人間がムショに入るかです。法務省の『矯正統計年報』から,新受刑者の配偶関係や学歴といった属性を知ることができます。次回は,配偶関係(有配偶,未婚,離死別)によって,ムショに入る確率がどれほど違うかを明らかにしようと思います。