2012年4月8日日曜日

教員採用試験の選考過程

「あの県は筆記重視だから,1次さえ通れば楽勝だよ」,「**県は,1次はたくさん通すけど2次でバンバン落とす」・・・。教員志望の学生さんの間で,こういう会話が交わされるのをよく耳にします。

 最近の教員採用試験では,人物重視の傾向が強まっています。面接や模擬授業等に,選考の重点を置いている自治体が増えていることは確かだと思います。しかるに,1次試験(筆記試験)のハードルを高くして,その後はよほどのヘマをしない限り通す,という県もあることでしょう。

 自分が受けようとしている県は筆記重視か,それとも面接等重視か。こういう関心をお持ちの方も多いと思います。文科省の統計では,段階ごとの合格者数は集計されていないのですが,東京アカデミーが全自治体を対象に独自の調査を行っていることを知りました。

 同社のサイトでは,それぞれの自治体について,受験者が何人,1次試験合格者が何人,最終合格者が何人,というデータが公表されています。
http://www.tokyo-ac.co.jp/kyousai/ky-data_0.html

 私はこのデータを使って,2012年度の小学校教員採用試験の選考過程がどうであったかを,都道府県別に明らかにしました。まずは,対照的な2県のケースをみていただきましょう。


 上図は,受験者数を100人とした場合,1次合格者,最終合格者が何人であったかを図示したものです。1次試験合格率,最終合格率と同義です。

 神奈川(指定都市含む)では,100人の受験者のうち,1次を突破したのは70人で,さらに最終合格までこぎつけたのは30人です。沖縄は,100人のチャレンジャーのうち,1次合格者は16人,最終合格者は12人だったとのこと。

 この2県を比べるとどうでしょう。沖縄では,筆記試験のハードルがかなり高いようですが,それさえ突破すれば後は楽勝?の感があります。面接等で振り落とされたのは,1次合格者16人のうちわずか4人です。

 一方の神奈川はというと,1次試験はほんの小手調べに過ぎず,本格的なセレクションはその後に控えています。当県では,筆記での脱落者数(30人)よりも,面接等での脱落者数(40人)のほうが多いのです。沖縄とは大違いです。

 神奈川は面接等重視型,沖縄は筆記重視型といえましょう。では,他県の状況もみてみましょう。試験の段階区分を設けていない石川を除いた46県のデータを掲げます。指定都市の分は,当該市がある県の分に含めています。たとえば北海道の統計は,北海道と札幌市を合算したものです。


 各県について,筆記試験でつまずいた者が何人,面接等で弾かれた者が何人かを計算しました。神奈川をみると,脱落者総数3,700人のうち,およそ6割(2,111人)が面接等での脱落者であることが知られます。沖縄は,脱落者の96%が筆記試験で弾かれた者です。

 表の右端の覧では,面接等での脱落者が脱落者全体に占める比率を出していますが,この指標でもって,各県がどれほど面接等重視か(人物重視か)を計測することができます。

 この指標が最も高いのは神奈川の57.1%,最も低いのは福島の1.9%です。福島は,筆記重視なのですね。そういえば,この県の教職教養試験の問題は難しい印象を受けます。過去問をみると,選択肢を与えないで書かせる問題が多いのです。

 ほか,筆記試験重視の県として,青森,山形,福井,愛媛,長崎,宮崎,鹿児島,そして沖縄という県が挙げられます。いずれも,表の右端の数値が10%未満です。受験者の多くを筆記で落とす県です。これらの県を受験される方は,筆記試験の準備に力を入れる必要がありそうです。

 最後に,筆記での脱落者と面接等での脱落者の組成を,全県について明らかにした統計図をお見せします。46県を,面接等での脱落者の比重が高い順に配列しています。上方ほど面接等重視(人物重視),下方ほど筆記重視の県です。


 教員採用試験の有様は,県によってかなり違うようです。人物重視の選考をしているか,筆記重視の選考をしているかによって,各県の教員のパフォーマンスがどう異なるか,という興味深い問題も横たわっています。

 3月11日の記事では,県別の教員のパフォーマンス指数なる指標を出したところです。今回明らかにした,採用試験における人物重視度との相関関係をとってみると,どういう結果が出るかしらん。

 教員採用試験のあり方を考えるには,この種の実証研究も必要になってくるでしょう。教員採用の改善について,当局がいろいろな方針を打ち出していますが,それがどれほど科学的な研究(エビデンス)に裏付けされたものであるかは,疑わしいような気もするのです。