4月3日の記事で明らかにしたところによると,最近では,公立学校の新規採用教諭の3割ほどが30歳以上です。教員採用試験が難関化してきているためでしょうが,民間経験者のような多様な人材が歓迎される傾向が強まっていることも寄与していると思われます。
新規採用教員のうち,新卒が何%,社会人経験者が何%というような情報はないでしょうか。文科省の『学校教員統計調査』の教員異動調査から,新規採用教員の職名別に,採用前の状況がどうであったかを知ることができます。今回は,この統計を分析してみましょう。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001016172
2010年の同調査によると,前年度(2009年度)間に採用された公立小学校の教諭は12,527人です。ヒラの教諭ですから,当該年度の教員採用試験の合格者と考えてよいでしょう。この12,527人の採用前の状況を整理しました。近年の特徴を見出すため,1997年度のデータとの比較もしてみます。
この期間にかけて,採用教諭の数は5,520人から12,527人に増えています。団塊世代教員の大量退職のためです。
採用前の状況をみると,1997年度では新卒が49.1%で最も多かったのですが,2009年度では非常勤,塾講師等が最多です。臨時講師などをしながら試験に数回トライした浪人組であると思われます。このカテゴリーの比重は,39.3%から47.7%へと増加しています。近年の採用試験の難関化を示唆しています。
さて,注目される社会人経験者の比重はというと,2009年度の採用教諭では,官公庁勤務が3.3%,民間企業勤務が2.4%,自営業が0.2%,です。合算すると5.9%です。1997年度の11.4%よりも減じています。
現場に多様な人材を,ということで,「教職経験者や社会人(民間企業等での勤務経験を有する者)経験者など,特定の資格や経歴等を持つ者を対象とした特別選考」を実施している自治体が多いようですが,フタを開けてみると,採用者中の社会人経験者率は意外と少ないのですね。近年の減少傾向も予想外でした。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/senkou/1300238.htm
次に,公立中学校と公立高校の統計もみてみましょう。結果を帯グラフで表しました。煩雑になるので,上表の②~④は「社会人」として一括しています。
中高も小学校と同じ傾向が観察されます。新卒の減少,浪人組の増加です。社会人経験者の比率は,2009年度でみると,小学校が5.8%,中学校が8.2%,高校が12.2%です。上級学校ほど,率が高くなっています。しかるに,1997年度に比して率が減少傾向にあるのは全校種共通です。
4月3日の記事でみた,新規採用教諭の高齢化傾向は,採用試験の難関化に伴う浪人組の増加による部分が大きいようです。社会人経験者の増加によるものではありません。
まあ,上図の緑色のカテゴリー(非常勤,塾講師等)には,多様な人種が含まれているのですから,教員集団の成員の多様化が進んでいる,という見方もできます。でも,もう少し赤色の領分が増えてもいいのではないか,という気がします。
社会人枠何%,障害者枠何%,というようなテコ入れも必要になってくるのかなあ。ついでに,博士号取得者枠というのも・・・。これは,水月昭道さんが提案されているようですが。ちなみに,2009年度の公立中学校の採用教諭に,前職がポスドクという者が1人含まれています。女性です。お会いして,採用に至るまでの経緯がどういうものであったかをうかがいたいものです。
回を改めて,大学の新規採用教員の前職(採用前の状況)についても明らかにしてみようと思います。こちらは,大学外の社会人経験者の比率が高まっていることと思います。