2012年4月27日金曜日

東京の学歴地図

話題変更。4月24日に,2010年の『国勢調査』の産業等基本集計の結果が全県分公表されました。本集計では,対象者の学歴や労働力状態などが明らかにされています。この部分のデータは,社会学の学術研究において使われる頻度が高いものです。

 産業等基本集計の結果が公表され次第,やってみようと思っていたことがあります。東京都内の地域別に,住民に占める高学歴保有者の比率を明らかにすることです。そして,数値に基づいて各地域を塗り分けた「学歴地図」を作成することです。

 大都市の東京は,社会階層による住民の棲み分けが比較的明確です。私はこれまで,東京都内の地域別の統計を使って,さまざまな教育事象の社会的規定性を探求してきました。*子どもの学力の社会的規定性を扱ったものとして,「地域の社会経済特性による子どもの学力の推計」『教育社会学研究』第82集,2008年。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110006793455

 東京のこうした地域性に注目し,今後も,この種の実証研究を行っていこうと思う次第です。そのための第一歩として,高学歴人口率のような文化指標の値が,都内の地域間でどれほど異なるかをみてみます。

 『国勢調査』は5年おきに実施されますが,対象者の学歴が調査されるのは,10年に一度です。前回,学歴が調査されたのは2000年です。それから10年が経ちましたが,この期間中,いろいろなことがありました。リーマン・ショックという「100年に一度」と形容される大不況によって,人々の富の開きが拡大した,という面もあるでしょう。

 大都市・東京の内部における,社会経済指標の地域格差はどういうものでしょうか。今回は,所得のような経済面とは異なる,文化的な側面に注視することになります。

 2010年の『国勢調査』の産業等基本集計では,15歳以上の住民の最終学歴が明らかにされています。私は,大学・大学院卒の学歴を持つ者が,学校卒業人口全体に占める比率を計算しました。ベースには,在学者や未就学者を除いた,学校卒業人口を充てることとします。

 日本全国でいうと,大学・大学院学歴保有者は1,772万人,学卒人口は1億245万人です。よって,高学歴人口率はおよそ17.3%と算出されます。東京の場合,この値は25.1%です。大都市ゆえか,値が高くなっています。東京では,15歳以上の学卒人口の4人に1人が大卒以上です。

 それでは,東京都内の地域別にこの指標を出してみましょう。島嶼部を除く,53の市区町の数字を計算しました。計算に使った分子,分母の数字は,下記サイトの表10-2から得ました。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001038676&cycode=0

 下図は,結果を地図の形で表現したものです。


 おおよそ,中央部ほど色が濃く,周辺部に行くほど色が薄くなる構造になっています。東部の下町地域や西部の郡部は,高学歴人口率が低くなっています。白色は,20%に満たないことを意味します。

 黒色は,高学歴人口率が3割を超える地域です。上位5位は,武蔵野市(38.1%),千代田区(36.7%),杉並区(36.2%),中央区(35.8%),小金井市(35.8%),です。武蔵野市では,15歳以上の学卒人口の4割近くが大卒者です。

 地図の中央をみると,黒色のゾーンが左に伸びていますが,JR中央線の沿線地域に相当します。都心で勤務するホワイトカラー層のベッドタウンとなっている地域でしょう。上位5位に入っている,武蔵野市や小金井市もこの中に含まれます。

 予想はしていましたが,大都市・東京の内部では,高学歴人口率にかなりの差があります。高率地域や低率地域が固まっていることも注目されます。中央部から周辺部にいくにしたがって色が薄くなる傾向は,シカゴ学派の同心円理論を想起させます。都内における「棲み分け」構造は健在です。

 このような基底的な構造は,各地域の子どものすがたとも関連していることでしょう。2月1日の記事では,2011年3月の公立小学校卒業生のうち,国立・私立中学校に進学した者がどれほどいるかを地域別に計算しました。中学受験現象の量を測る指標ですが,この指標を,上記の高学歴人口率を関連づけてみましょう。


 両者の間には,明瞭な正の相関関係があります。相関係数は0.7009であり,1%水準で有意です。高学歴人口率が高い地域ほど,中学受験をする子どもが多い傾向が明らかです。

 中学受験は,将来の地位達成のための手段としての側面を持っていますが,この戦略を行使するかしないかは,地域環境にかなり規定されていることが知られます。

 上図のデータが示唆しているのは,高学歴の親を持つ子どもほど中学受験をする頻度が高いという,個人的な行動傾向だけではありません。地域に高学歴者が多いことで醸成される,文化的な雰囲気(クライメイト)のようなものが重要であることをも物語っています。

 今回明らかにした高学歴人口率は,子どもの学力指標や,肥満児出現率のような健康指標とも相関しているのではないでしょうか。大都市・東京の経験データを使って,子どもの発達の社会的規定性の諸相を解明する作業を手掛けていきたいと思っております。

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