前々回の記事では,2009年度間の小学校教員の離職率を都道府県別に明らかにしました。その結果,離職率は,最高の38.1‰(鹿児島)から最低の3.3‰(沖縄)まで,大きな開きがあることが分かりました。
離職率が最も高い鹿児島は,私の郷里です。この県で何が起きているのか気になります。県教委の関係者に取材をするのも一つの手ですが,マクロな統計から引き出せる知見はもっとあります。もう少し詰めてみましょう。
私は,鹿児島県の小学校教員の離職率を属性別に出してみました。離職率が高いのは男性か女性か,若年層か高齢層か・・・。医学にたとえると,病巣を突き止める作業です。社会病理学の立場から,鹿児島県の教員「社会」の病状を診断してみようと思います。*言葉が悪くてすみません。
前々回のおさらいですが,ここでいう離職率という指標について説明しておきます。分子の離職者数は,2009年度間の数値で,出所は文科省『学校教員統計調査』(2010年版)です。この資料では,理由別の離職者数が計上されています。設けられている理由カテゴリーは,①定年,②病気,③死亡,④転職,⑤大学等入学,⑥家庭の事情,⑦職務上の問題,⑧その他,です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001016172
私が分子に充てたのは,これらのうち②,⑥,⑦,⑧の理由による離職者数です。これらの合算値は,各種の危機や困難(不適応)によって教壇を去った教員の量の近似値と考えられます。この数を,2009年5月1日時点の本務教員数で除して,千人あたりの離職率を計算しました。分母の本務教員数の出所は,2009年版の文科省『学校基本調査』です。
なお,年齢層別の離職率を出す際に分母として使った本務教員数は,2010年の『学校教員統計調査』に掲載されている,2010年10月1日時点のものです。年齢層別の教員数は,『学校教員統計調査』の実施年のものしか分かりませんので,このような措置を取ったことをお許しください。
では,性別・年齢層別の離職率の計算結果をお見せします。鹿児島県の特徴を検出するため,全国統計との比較も行います。下表をご覧ください。
性別でみると,鹿児島の場合,男女の差が大きくなっています。男性は17.4‰,女性は56.3‰です。56.3‰を百分比にすると5.6%ですから,当県では,女性教員の18人に1人が,定年や転職といったメジャーな理由とは別の理由で職を辞したことになります。
それ故,全国水準との差は女性で大きくなっています。鹿児島の女性教員の離職率は,全国のそれの4倍以上です。
次に,年齢層別の離職率をみてみましょう。どの年齢層も,鹿児島の離職率は全国を上回っているのですが,とりわけ20代の離職率が格段に高くなっています。169.1‰ということは16.9%,すなわち6人に1人が,定年や転職とは異なる理由で教壇を去ったことになります。本当かと思い,何度も原資料を見直しましたが,分子の離職者数は137人となります。年次がズレますが,分母の本務教員数は810人です。よって離職率は,137/810≒169.1‰(16.9%)となる次第です。
2009年度に限って,何か突発的な事情でもあったのでしょうか。この年度において,当県で大量の懲戒・分限免職者が出たという記録はありません。(文科省の「平成21年度・教育職員に係る懲戒処分の状況について」)。私立小学校における大量リストラでしょうか。しかるに,2009年から2010年にかけて,当県の私立小学校の教員数に大きな変化はありません。そもそも,鹿児島では私立小学校はごくわずかです(3校)。
最近では,教員を民間企業や福祉施設などに派遣する,「長期社会体験研修」を実施している自治体もあるようですが,それでしょうか。長期にわたる研修のため,いったん籍を外して(辞めさせて)派遣する??。これも考えにくいですねえ。
あと一つ考えられるのは,産休代替講師などの講師の離職です。文科省の統計では,正規の教員と同じ勤務をする常勤講師は,本務教員としてカウントされています。ですが,鹿児島県において,2009年度間に離職した20代の講師は皆無です。
考えられ得る可能性を潰してきましたが,20代の教員の6人に1人が辞める状況って一体・・・。
鹿児島の小学校教員の離職率を高らしめている層は,女性,若年層であることが分かりました。既存統計で詰めることができるのはここまでです。この結果を携えて,県教委の関係者の方に取材を申し込んでみようかと。おそらく歓迎はされないでしょうが・・・。