ICTという略語をご存知でしょうか。Information and Communication Technologyの略で,コンピュータや情報通信ネットワーク等からなる,情報コミュニケーション技術のことであると解されます。
教員採用試験の参考書を書いていて思うのですが,最近,教育政策文書の中に,この3字を目にすることが多くなりました。それもそのはず。社会の情報化が進む中,教育も情報化することが求められているのですから。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/main18_a2.htm
高等学校において,情報科が必修となったのは1999年の学習指導要領改訂時ですが,現在,ICTを活用する能力を生徒に獲得させることが求められているといえましょう。
しかるに,実際のところ,生徒がそういう能力を身につけるのは,学校の授業を通してではなく,日頃の生活において各種のICTに親しむことによってではないでしょうか。日本の若者は,ケータイ(スマホ)を肌身離さず身につけ,ヒマさえあればそれと睨めっこしています。動画を観ている者,mixi等のコミュニティサイトにアクセスしている者,その他いろいろですが,こういう日常に浸かっている彼らのICT活用能力は相当なものではないかしらん。
ところで,世界は広し。他国の若者はどうか,ということが気になります。今回は,日本の高校生のICT利用度を,国際的な見地から相対化してみようと思います。結果を先取りすると,日本の生徒の特異性が明らかになることでしょう。
用いるのは,PISA2009の生徒質問紙調査のデータです。同調査では,対象の15歳の生徒(日本は高校1年生)に対し,「あなたは,次のことをするために自宅でコンピュータをどのくらい利用していますか」と尋ねています。太字の箇所がポイントです。
上記の9項目への反応を合成して,各国の生徒のICT利用度を計測する尺度をつくってみましょう。やり方は簡単です。選択された数値を合算するだけです。最高は36点(4点×9=36),最低は9点となります。赤丸は私の回答結果ですが,私の場合,これらを合計して23点となります。
私は,上記調査のローデータを使って,44か国,29万2,730人のスコアを計算しました。全対象国(74か国)よりもかなり少なくなっていますが,情報インフラがある程度整備された国の生徒にのみ向けられた設問であるためです。ただし,米英仏のような先進国も,この設問への回答は得ていないようです。
上表は,上記設問に回答した生徒のスコア分布です。ICT利用スコアと呼びましょう。この分布を参考にして,29万2,730人の生徒を3群に分かちました。27点以上は利用度が高い「高群」,20点以下はそれが低い「低群」としました。両者の中間は,「中間群」としました。私は23点ですから,中間群ということになりますね。
このように区切ると,3群の量のバランスがとれます。では,ICTの利用度をもとに検出した3群の分布が,国によってどう違うかをみていきましょう。わが国では,利用度が高いと判断される「高群」は,どれくらいいるのかしらん。
上図は,わが国を含む5か国の分布図です。先に記したように,米英仏は,データがありません。図をみると,ほほう。日本の生徒は,何と86.6%が,利用度が低い「低群」に括られます。高群はたったの3.7%しかいません。他の4国とは,明らかに違っています。
比較の対象を,44か国全体に広げてみましょう。最近,本ブログをご覧頂いている方は,表現方法についてはお分かりかと思います。中間を抜いた,両端の2群の比率に注目します。横軸に低群,縦軸に高群の比率をとった座標上に,それぞれの国を位置づけてみます。
わが国の「外れっぷり」のすごいこと。日本の高校生のICT利用度は,ダントツで低くなっています。ホンマかいな?と,何度もデータを見直しましたが,こういう結果です。
「自宅でコンピュータ」とあるので,ケータイやスマホによるメールやサイト閲覧は除かれると解されます。こういう手持ちの機器を除いたら,わが国の高校生のICT利用度はガクンと落ちるのですねえ。世界の最下位まで・・・。
私は冒頭にて楽観的なことを書きましたが,この手の小型機器では,画像を編集したり,デジタル資料をつくったりというような,実社会で求められるICTスキルは身につかないともいえます。日常生活において,小型機器だけでなく,パソコンにも触れるよう仕向ける必要がありそうです。*ケータイを持たない私の場合,常に逆のことを言われますが。
さて,こういう状況ですので,わが国の高校生のICT活用能力がどういうものかが懸念されます。同じくPISA2009の生徒質問紙調査では,画像を編集する,データベースをつくる等の能力についても問うています。回を改めて,この種のスキルの国際比較を行おうと思います。