2012年10月11日木曜日

親の養育態度と非行

 先日,警察庁の『犯罪統計書-平成23年の犯罪-』が公表されました。この資料は,犯罪者や非行少年の数が計上された,最も公的な原統計です。警察庁のサイトにて,閲覧することができます。
http://www.npa.go.jp/toukei/index.htm

 この資料によると,2011年中に警察に検挙された14~19歳の非行少年は77,696人だそうです。性懲りもなく何度も悪さをしでかして御用となる輩もいますので,この数は延べ数です。

 警察庁の上記資料には,非行少年の家庭環境について仔細に調査した結果が掲載されています。その中に一つに,非行少年の保護者の養育態度に関する統計表があります(表108)。父親と母親のデータが載っていますが,子どもと接する時間が長いと考えられる母親の養育態度の内訳をみてみましょう。


 放任,拒否,過干渉,気まぐれ,そして溺愛という5つのカテゴリーが設けられていますが,まあ,全体の4分の3は,これらのいずれにも該当しない普通の養育態度を持った母親です。

 養育態度の歪みの中で最も多いのは「放任」です。非行少年の5人に1人が,母親の養育態度が放任と判断されています。他のカテゴリーはごくわずかですが,溺愛が1.7%でこれに次ぎます。

 ですが,これは全罪種をひっくるめた統計です。非行の多くは万引きのような非侵入盗ですが,殺人や強盗のようなシリアス度が高い罪種もあります。当然,罪種によって親の養育態度はかなり異なるものと思われます。

 たとえば,殺人少年56人の場合,そのうちの25人(44.6%)が,放任的な母親のもとで育ったと判断されています。性犯罪の強姦については,全体の10.1%が溺愛です。全罪種でみた数値(1.7%)よりもはるかに高い値です。

 他の罪種についてもみてみましょう。母親の養育態度の歪みとして多いとされる,放任と溺愛の比率に注目します。横軸に溺愛,縦軸に放任の比率をとった座標上に,14の罪種を位置づけてみました。点線は,上記の円グラフでみた,全罪種の場合の比率を意味します。溺愛は1.7%,放任は19.5%です。


 図の上にあるのは放任の比率が高い放任型,右にあるのは溺愛型といえます。放任型には,殺人,強盗,傷害など,アグレッシブな罪種ばかりが属しています。強姦やわいせつといった性犯罪は,溺愛型に括られます。

 これをどうみるかですが,上図の傾向を支持する学説があります。サイモンズによる,親の養育態度の類型論です。サイモンズは,「拒否-受容」,「支配-服従」という2本の軸を組み合わせて,養育態度の4類型を析出しています。

 図をつくるのが面倒なので,拙著『教職基本キーワード1200』(実務教育出版)の該当頁の写真を提示します。


 右下の無視型は,放任型といいかえてもよいでしょう。サイモンズによると,放任型の親子関係で育った子どもは,攻撃的な人格になる傾向があるのだそうです。なるほど。まさに,上図の傾向と符合しています。

 はて,放任的な親子関係と攻撃的人格はなぜ結びつくのでしょう。教育社会学の授業で,学生さんに聞いてみたところ,「かまってもらえないので,自己顕示欲が強いんじゃないですか?」という意見が多かったです。

 ふむふむ。ほったらかしにされた子どもは,欲求を充足してもらいたい場合,大声を出す,暴れるなど,攻撃的なアクションをしなければならないので,攻撃的な人格が形成されていく,ということは考えられます。

 次に,溺愛的な親子関係と性犯罪のつながりはどうでしょう。この点について,ある学生さんと次のような会話をしました。

「『13歳のハローワーク』に,性的なことに関心を持つ子どもは,幼少期に愛情を注がれなかったって書いてありましたよ」
「溺愛って,ベタベタに可愛がることじゃないの」
「でも,それって本当の愛情ではないですよね」
「・・・」

 達観した物腰でこう言われて,思わず納得してしまいました。愛情欠如と性犯罪の関連については,何かの心理学関係の本で読んだことがありますが,溺愛というのは,見方によっては愛情欠如に含めて考えることもできるのかもなあ,と思った次第です。

 私の授業では,授業の主題に関連する統計を分析し,グラフを描いてもらい,そこで浮かび上がった傾向について議論することが多いです。学生さんの側も,自分で電卓を叩いて数値を計算し,精魂込めて描いたグラフであるだけに,愛着を持つといいますか,議論に食いついてくれることが多いように感じます。

 授業の受講生の方に申します。ケータイの電卓を使うのもいいですが,できれば,卓上電卓をお持ちください。買う必要はありません。お家のちゃぶ台の上にあるやつをちょっと借りてくるだけで結構ですので。