2012年10月29日月曜日

いじめを目撃した場合の対応

 滋賀県大津市の中学生いじめ自殺事件を受けて,いじめ問題への社会的な関心が高まっています。どこかで指摘されていましたが,この問題への社会的関心は,重大事件があると急騰し,その後一定期間過ぎたら鎮静し,事件が起きたら再び・・・というように波状を描く傾向を持っています。

 それはさておいて,年輩の方には,「これほどまでに無残ないじめが行われていて,止めに入る子はいなかったんだろうか」と,疑問に思われる向きもあるかと察します。私は年輩の方と話すのが好きですが,「僕らの頃は,いじめなんかする奴がいたら,みんなでやっつけたものだった」と口にされるのをよく聞きます。戦前生まれ世代です。

 いじめとは外部(親,教員)から見えにくい行いであるが故,その解決にあたっては,当時者集団の自浄作用がモノをいいます。ここでいう当時者集団とは,被害者と加害者だけでなく,周りではやし立てる観衆や,さらにその外側にいる多人数の傍観者をも含みます。

 昔は,「やめろ」といって止めに入る仲裁者や,教員等に知らせに行く申告者が多くいたのでしょうが,今では,自分に難がふりかかるのを恐れて「見て見ぬふり」を決め込む傍観者がそれに取って代わっています。

 以上は一般的な理論ですが,いじめを目撃した場合,今の子どもはどういう対応をとるのでしょう。上記でいう仲裁者,申告者,傍観者の構成は如何。この点に関する調査データを見つけましたので,ここにて紹介しようと思います。

 厚労省は,5年間隔で『全国家庭児童調査』を実施しています。小学校5年生から18歳未満の児童を対象とするものです。本調査では,対象の児童に対し「クラスの誰かが他の子をいじめているのを見た」場合の対応について尋ねています。最新の2009年度調査の結果は以下のごとし。総計502人の回答分布です。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/72-16.html

 ①「やめろ!」と言って,とめようとする ・・・ 58人(11.6%)
 ②先生に知らせる ・・・ 127人(25.3%)
 ③友達に相談する ・・・ 241人(48.0%)
 ④別に何もしない ・・・ 76人(15.1%)

 ①は仲裁者,②は申告者に相当します。④は傍観者です。③については,解決のための積極的なアクションを起こさない点で,傍観者に含めてよいでしょう。「いじめだよね・・・」「可哀そうだよね・・・」とささやき合う程度のものは,傍観者と何ら変わりありません。

 このような見方をとると,調査対象者(多くは中高生)の63.1%が,いじめを目撃しても傍観者的な反応を決め込んでいることになります。申告者は4人に1人,仲裁者に至っては10人に1人に過ぎません。

 なお,反応の分布は,児童の発達段階によって異なるでしょう。男子と女子の違いも気になるところです。性別・学年別のデータも分かりますので,以下にグラフを掲げます。男女×8学年の16カテゴリーにバラすと,各カテゴリーのサンプル数がかなり少なくなってしまいますが,まあ,傾向を読み取る分には問題ないでしょう。


 赤線で囲んでいるのは,仲裁者と申告者です。大よその傾向でいうと,学年を上がるほど,この2者の比重が減じていきます。女子でいうと,小学校5年生では68.8%でしたが,高校1年生ではわずか18.6%なり。

 その分,「可哀そうだよね」と友達と言い合うだけの層,何もしない層が増えてきます。女子の場合,小6と中1の落差が大きいことも注目されます。「中1ギャップ」の表れとみることもできるでしょう。

 中学や高校になるといじめ行為の態様がエスカレートし,自分に難がふりかかってはたまらないと,傍観を決め込む生徒が多いのだと思います。いじめ問題への対応にあたって重要なのは,加害者への指導と同時に,人数的に多数を占める傍観者層を,いかにして仲裁者や申告者に転化させるかです。集団の力ほど強いものはありません。

 この点について,今の現場でなされていることは,「傍観は最たる悪である」という心の教育や,匿名のいじめ申告アンケートといったことです。後者はそれなりに効をなしているようであり,闇に葬られていたいじめが次々に明らかになり,解決につながったケースも少なくないといいます。

 ちなみに,いじめを目撃した場合,子どもがどういう対応をとるかは,親のしつけと関連している面があります。上記調査では,対象の児童に対し,親のしつけの厳格さについて問うています。「とても厳しい」ないしは「やや厳しい」と答えた者を「厳格」群,「やや甘い」あるいは「とても甘い」と答えた者を「甘い」群として,双方で,対応の分布がどう違うかを調べてみました。


 子どもと接する時間が長い母親のしつけに注目しましたが,厳格なしつけを受けている群のほうが,仲裁ないしは申告という,積極的なアクションを起こす者の率が高いようです。微差にとられるかもしれませんが,カイ2乗検定をしたところ,5%水準で有意な差です。

 厳格なしつけを肯定するのではありませんが,家庭においてもなすべきことはありそうです。

 厚労省の『全国家庭児童調査』はあまり知られていないようですが,有用なデータを多く含んでいます。上記URLからアクセスしてみてください。