2012年10月17日水曜日

教員のバイト化

 10月13日の朝日新聞Web版に,「私立高教員37%が非正規,生徒減り経営難,人件費抑制」と題する記事が載っています。詳細な内容は,タイトルをみればピンとくるかと思います。
http://www.asahi.com/job/news/TKY201210120696.html

 上記の記事でいう「非正規」教員とは,講師職の教員のことです。講師とは,「教諭又は助教諭に準ずる職務に従事する」職のことで(学校教育法第37条),常勤講師と非常勤講師の2種類に分かれます。前者はフルタイム勤務で,産休・育休代替講師等が多くを占めます。後者は,数時間の授業をするためだけに雇われている,いわゆる時間講師です。

 朝日新聞の記事では,両者の合算をもって非正規教員としているようですが,私としては,後者の時間講師に限定したほうがよいのではないか,と思います。産休・育休をとる教員や病気で休職する教員が増えているなか,常勤講師の増加は,ある意味,不可避のことといえます。

 問題なのは,時間講師のような,細切れの時間給で働く「バイト」先生が増えることでしょう。この種の教員は,まさに「人件費抑制」という理由によって増やされます。

 細切れの時間勤務のゆえ,生徒と顔を合わせるのも断続的な時間講師があまりに増えることは,総体としての教育実践に大きな影響をもたらします。時間講師は職務を単なるバイトと割り切り,雇う側は彼らを仲間とはみなさない傾向もあります。私の知人で,採用試験に受かるまで4年ほど公立中学校で時間講師をやったという人がいますが,ある学校の校長から「バイトさん」などと呼ばれ,相当凹んだとのこと。

 このようなことは,現在,学校現場に強く求められるチーム・プレーが発動するのを妨げる条件にもなり得るでしょう。私は,時間講師の比率でもって,教員の非正規化(バイト化)傾向を可視化してみようと思います。

 文科省の『学校基本調査』では,教員は本務教員と兼務教員に分類されています。ここで問題にする,細切れ勤務の時間講師は,後者のうちの講師に相当します。2011年度の数字を出すと,公立小学校は18,353人,公立中学校は14,166人,公立高校は31,106人なり。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001011528

 この数が,広義の教員(本務+兼務)全体に占める比率を出すと,下表のようです。各学校種について,公私に分けて率を計算しました。


 上級の学校ほど,そして公立よりも私立校において,時間講師依存率は高くなっています。ほう。私立高校では,この率が29.6%にもなります。私立高校の場合,学校に出入りする教員の3人に1人が時間講師(バイト先生)ということになります。

 このような状況は,いつ頃から現出してきたのでしょう。1975年から2011年現在までの推移をたどってみました。私が生まれてからの時期のほぼ相当しますが,この期間中,各学校種において,時間講師の比率がどう変わってきたのかを図示します。

 下図は,横軸に公立校,縦軸に私立校における時間講師率をとった座標上に,各年のデータを位置づけて,線でつないだものです。小・中・高の3本の曲線が描かれています。


 校種を問わず,右上がりの曲線になっています。公立校でも私立校でも,教員のバイト化が進んでいることが知られます。ヨコよりもタテ方向の伸びが大きいことから,その程度は,私立校で大きいようです。この点については,説明不要でしょう。

 ただ高校の場合,1990年代以降はヨコ方向へのシフトが目立っています。公立高校の時間講師依存率は,1990年の11.0%から2011年の14.5%にまで増えました。私立は,28.1%→29.6%です。近年の傾向でいうと,公立校のバイト化傾向が顕著です。私立高校教員のバイト率約3割というのは,かなり前からのものだったようです。

 小・中・高において,教員のバイト化が進行していることが分かりました。これは時代変化ですが,地域別の違いも気になります。文科省の『学校基本調査』に県別統計が載っていますが,そこで集計されているのは公立校の数値です。

 教員のバイト率が高いのは私立校なので,私立校の地域別データがないものか探したところ,東京都内の地域別統計をみつけました。ただ,そこで示されているのは兼務教員の数です。でも,上表から分かるように,全国統計でみた場合,兼務教員の8割は時間講師です。よって,兼務教員の比率から,教員のバイト化傾向の程度を推し測ってもよいでしょう。

 下の表は,東京都内の市区別に,私立高校教員の兼務教員率を計算したものです。aとbの数値は,2011年度の『東京都・学校基本調査』から得ました。ペンディングになっているのは,私立高校がない地域です。
http://www.toukei.metro.tokyo.jp/gakkou/2011/gk11qg10000.htm


 ほう。大都市の東京では,多くの市区において,私立高校教員の兼務率が高くなっています。50%超の地域の数値にはマークをしましたが,11の市区において,教員の兼務率が半分を超えています。

 最高は調布市の73.8%です。仮に,全国統計と同様,兼務教員の8割が時間講師だとすると,当該市の私立高校教員の時間講師依存率は,73.8×0.8=59.0%となります。5人に3人がバイト先生です。ちょっと割り引いて補正率を7割とすると,51.7%。これでも半分を超えます。

 補正率7割として,上表の各市区の時間講師依存率を推し量ってみました。下図は,結果を地図化したものです。


 黒色は,私立高校教員の時間講師率の推定値が4割を超える地域です。調布市(51.7%),昭島市(45.3%),国立市(41.2%),そして清瀬市(40.3%)が該当します。ほか,多くの市区が30%台ですが,全国値が29.6%であることを思うと,大都市・東京では,私立高校教員のバイト化傾向がより顕著であるといえます。市場も大きいが,その分,競争も激しい,ということでしょう。

 以上,小・中・高校教員のバイト化傾向を数字でもって可視化しました。こうした変化が,教育実践の効果に及ぼす影響は,決して小さなものではないでしょう。当局もこの問題を意識しているようであり,9月7日に公表された「子どもと正面から向き合うための新たな教職員定数改善計画案(5か年計画)」では,「非正規教員増加の抑制」を図ることが意図されています。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/hensei/003/1326013.htm

 これから先,上図の非正規化曲線がどう推移するのか。注目されるところです。