2014年8月18日月曜日

大学生文化の国際比較

 人間の意識や行動の拠り所となる文化には,大きな全体文化と同時に,その中に含まれる複数の下位文化があります。後者はサブカルチャーと呼ばれるものであり,社会を構成する下位集団ごとに固有の性格を呈しています。

 代表的なサブカルチャーとしては,たとえば青年文化(youth culture)があります。いつの時代でも青年は,上の世代からしたら理解不能な独自の文化を創造します。それはしばしば世代対立を引き起こすのですが,当人らにすれば,うざったい年長者の支配や干渉から自分たちを守る保護膜の機能も果たしています。また,社会への適応に疲れ切った青年たちの「逃避」の場としての機能も有しています。

 その意味で,青年文化を統制や取り締まりの対象としてみるだけではなく,それが創造されるのを見守り,時には支援するという構えも必要になります。

 さて青年層として,ひとまず10代後半から20代前半あたりを想定すると,主要先進国では,多くが高等教育機関に通っています。その代表格は大学ですが,そこに通う学生の間でどういう文化が形成されているか。国ごとにどう違うか。今回は,大学生文化の国際比較を手掛けてみようと思います。学生支援の在り方を考える上でも,必要な作業といえるでしょう。

 方法は,7か国(日・韓・米・英・独・仏・瑞)の大学生を対象とした数量調査の分析によります。用いるのは,内閣府の『我が国の諸外国の若者の意識に関する調査』(2013年度)のデータです。この調査では,13~29歳の若者の意識や行動をいろいろ尋ねているのですが,大学生サンプルを取り出し,分析対象とします。その数,7か国合計で1,299人です。

 どういう分析手法をとるかですが,文化というのは包括的な概念ですので,意識や行動の設問を2つや3つクロスして,タイプを析出するというような方法は通用しません。ここでは,数量化Ⅲ類という手法を使います。複数の設問の回答(アイテム)から相関の高いものを集め,それをもとに対象者の特性を分かつ軸を析出する技法です。

 私は,数量化Ⅲ類に投入するアイテムとして,以下の20を考えました。10の設問に対する2種の答えです(10×2=20)。


 満足度,場面別充実度,心理障害,および将来展望という4つの大枠のもと,10の設問をピックアップしました。各設問とも4段階で肯定度を尋ねる形式ですが,肯定(1)と準肯定(2)を「肯定」,準否定(3)と否定(4)を「否定」に括ります。

 7か国1,299人の大学生のデータを使って,上記の20アイテムを投入した数量化Ⅲ類を行いました。軸は2軸まで析出しました。この2軸の累積寄与率は39.5%です。


 2つの軸の上には,関連の高いアイテムが盛られています。アイテムのスコアは,軸上の位置を表すものです。上表には,スコアが上位5位と下位5位のアイテムを掲げています。これをもとに,Ⅰ軸とⅡ軸がどういう特性を分かつ軸かを考えてみましょう。

 まずⅠ軸ですが,プラスの方向には,満足度が高く,精神面で健康なことを示すアイテムが並んでいます(6位はスポーツ充実:肯定,8位は勉強充実:肯定)。逆のマイナス方向には,勉強や仲間関係が充実していない,満足度が低い,希望がない,というアイテムがあります。これらのことから,このⅠ軸は,生活が充実(+)と不充実(-)を分かつ軸であると解釈します。

 次にⅡ軸をみると,プラス方向には4つの面の充実度が全て否定,しかし就職のような心配事はない。憂鬱やぼっちも否定です(6位,7位)。マイナス方向は反対に,勉強やスポーツに充実を感じるが,就職の心配があり,憂鬱やぼっち感もある。これらのことから,このⅡ軸は,図太さ(+)と神経質(-)を分かつ軸であると解しましょう。

 この2軸をクロスすることで,大学生文化の4類型ができあがります。下図をご覧ください。アイテムスコアをもとに,投入した20アイテムを座標上に位置づけています。


 第1象限(充実×図太い)は「マイウェイ型」,第2象限(不充実×図太い)は「離脱型」,第3象限(不充実×神経質)は「病質型」,第4象限(充実×神経質)は「過剰適応型」と命名します。ネーミングが適当か分かりませんが,ひとまずこうしておきましょう。

 7か国の大学生1,299人は,自身の回答(10アイテム)に付与されたスコアを合算し,両軸の上での位置が確定することで,上図の座標のどこかにプロットされることになります。第1象限の場合は「マイウェイ型」,・・・第4象限の場合は「過剰適応型」ということになります。

 1,299人のタイプ分布は,マイウェイ型が25.4%,離脱型が19.0%,病質型が24.6%,過剰適応型が30.9%です。ほう,右下のタイプが最多なのですね。勉強もスポーツもバリバリするが,内心は相当無理をしている,さびしい・・・。こんな学生がマジョリティーなのだなあ。

 これは7か国全体の分布ですが,国ごとにみると様相は違っています。下図は,国別のタイプ分布です。カッコ内はサンプル数です。


 日本は病質型が最も多くなっています。全体の半分近くです。勉強に意義を見いだせず,憂鬱・ぼっち感を呈し,就職が心配・・・。なるほど,こういう学生さん,多いものなあ。私の感覚ですが,さもありなんです。

 離脱型も7か国で最も多いことに注目。勉強やスポーツなど,あらゆる面に充実感を見いだせないが,当人は何とも思っていない。最近の退学率の高まりを思うと,こちらもちょっと頷けます。

 一方,諸外国ではマイウェイ型や過剰適応型が多いですね。イギリスでは,45.5%がこのタイプです。締め付けられるからかなあ。

 ちなみにジェンダー差をみると,日本の離脱型は男子のほうが多くなっています(男子34.6%,女子24.8%)。病質型と過剰適応型は,女子のほうがやや多し。これも分かりますな。

 以上,試行的に国別の大学生のタイプ構成をあぶり出してみましたが,各国の大学のクライメイトに通じるところもあるかと思います。日本の学生文化は放っておいたらあまりいい方向にはいかないようなので,意図的な働きかけも必要でしょう。私としては,もう少しマイウェイ型が多くなってほしいな,と思います。

 今回みた学生のタイプ構成,およびそこから醸し出される下位文化は,大学のタイプ(ランク)によっても異なるはずです。この点もぜひ知りたいのですが,そこまでは手が及びません。武内教授らの研究で,明らかにされているのかな。『キャンパスライフの今』(玉川大学出版,2003年)があるのですが。

 今回は大学生の類型をしてみましたが,機会をみつけて,中高生のそれも解剖してみようと思っています。同じ内閣府調査で分析可能です。いやあ,ローデータが手元にあるって素晴らしい。

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