2014年8月29日金曜日

『青空文庫で社会学』

 横浜国立大学の渡部真教授より,『青空文庫で社会学』をお送りいただきました。お弟子さんの小池高史氏との共著です。
http://clartepub.shop-pro.jp/?pid=77783016


 渡部先生は教育社会学・犯罪社会学の研究者であられ,青少年の逸脱行動に関する書籍や論文を数多く発表されています。1979年の「青年期の自殺の国際比較」(『教育社会学研究』第34集),82年の「高校間格差と生徒の非行的文化」(『犯罪社会学研究』第7号)などは,私にとって大きなインパクトがありました。

 前者では,α値という指標をもとに青年層の自殺の国際比較が行われています。青年の自殺率の絶対水準を観察するだけでは不十分で,所与の社会において,青年層にどれほど自殺が集中しているかを吟味しないといけない。こういう視点から,青年の自殺率が全体の何倍かを表すα値が,比較の指標として用いられています。

 後者は,階層構造内で位置を異にする複数の高校を取り上げ,各々の高校内でどのような下位文化(サブカルチャー)が支配的かを明らかにしたものです。生徒に対するアンケート調査のデータを数量化Ⅲ類にかけ,階層構造内で下位の学校ほど,非行に親和的なカルチャーが蔓延していることが実証されています。

 渡部先生の文章は読みやすく,私はとても好きです。聞けば,東大の大学院にて,わが師匠・松本良夫先生の教えを受けられたとのこと。こういう共通の地盤があるためかしらん。私にすれば,兄弟子とも言い得るお方。*不遜な言い方をお許しください。

 近年では,『ユースカルチャーの現在-日本の青少年を考えるための28章-』(2002年),『現代青少年の社会学-対話形式で考える37章-』(2006年)などの単著を出しておられます。特徴は,2人の人物の対話(dialog)という形式で書かれていること。

 渡部先生も書かれていますが,ダイアローグは,自分の考えを分かりやすくはっきりと伝えるのに適しているそうです。なるほど,いかに研究者であれ,日常会話では小難しい言葉は使いませんからね。かといって,腑抜けた居酒屋談義のようなものではなく,豊富な資料やデータを引き合いにして,学問的な議論が行われています。

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 今回謹呈いただいた『青空文庫で社会学』も,同じつくりになっています。渡部先生と小池氏による対話形式です。本書では,目ぼしい文学作品を素材にした議論が行われています。取り上げられているのは,青空文庫(著作権切れの文学全集)に入っているものであり,誰でも読めるそうです。この点もいいですねえ。
http://www.aozora.gr.jp/

 目次をみると18の章が盛られており,章ごとに,太宰や鴎外などの作品が掲げられています。これだけだと,文学作品の解説本と間違われそうですが,それらを通してどういうテーマについて議論するのかが,キーワードで示されています。クーリングアウト,社会統制,近代,階級文化など,社会学の重要タームも盛りだくさん。

 各章の内容は完結しており,どの章から読んでもいいとのことですので,私はまず,8章「ある自殺者の手記(モッパーサン)」から読ませていただきました。キーワードは「自殺・動機」です。

 架空の自殺者の手記を載せた短編小説(1884年)ですが,それから読み取れる自殺の原因(希望が失せた孤独,倦怠,消化不良,思い出)が,デュルケムのいう自己本位的自殺と通じるところがあるそうです。

 デュルケムの『自殺論』が公刊されたのは1897年ですが,急激な産業化により,人々の連帯が喪失しつつあった当時の西欧社会の危機は,統計のみならず文学にも表れていたのですなあ。

 自己本位的自殺は,社会の統合が弱まることで起こるとされた自殺タイプです。「人はいかなる集団にも属さずして,自分自身を目的として生きることはできぬ」とデュルケムは述べていますが,こうした自己本位的状況が,上記の作品の遺書にも綴られていると。

 同時代のフランスを生きたデュルケムとモッパーサンは,「まったく異なった方法で自己本位的状態の事を考えた」(本書104ページ)のだと言えます。また,「社会学者は自殺統計を利用し,文学者は自分の内面を見つめ個人的手記という形をとった。結局,最後は同じような結論を得ている」(同)ことになります。

 私などはつい数字ばかりに頼ってしまいますが,人間の深奥が自由に描かれた文学というのも,重要な資料(データ)ですねえ。本書の「おわりに」には名言があり,線を引き付箋を貼ってしまいました。

・「二流の社会学者の本を読むよりも,一流の文学作品を読んで,常識にとらわれることなく,人間や社会を見る目を養ってほしい」(作田啓一,本書209ページ)。
・「社会学は自然科学から学ぶほどには文学から学んでこなかった」(同上)。
・「文学は人間のもっとも深いところから発信される,第一級の情報である」(210ページ)。

 私は,「社会をモノのように扱うべし」(デュルケム),「コントは社会学を物理学たらしめようとした」というような言を座右の銘にしていますが,上記の3つ目を加えようかしらん。人には好み(得手不得手)がありますが,こういう情報も使えるようになれたらな,と思います。

 『青空文庫で社会学』は,渡部先生のブログ「ユースカルチャーの社会学」をベースに作られたものだそうです。毎月半ばくらいに,内容が更新されています。今後も継続され,ある程度たまったらまた活字化されるのでしょう。
http://sociologyofyouthculture.blogspot.jp/

 文学を素材にした,渡部・小池流の青年社会学。私とは真逆のアプローチですので,大いに勉強になります。今後の展開に期待しております。

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