2017年3月25日土曜日

20代の動機別自殺者数の変化

 景気回復の恩恵もあってか,ここ数年で,若者の自殺者数は減少をみています。警察庁の『自殺の概要資料』によると,2007年の20代の自殺者(a)は3309人でしたが,2016年では2235人にまで減っています。
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/jisatsu.html

 少子化の影響もあり,20代人口(b)もこの期間で1503万人から1269万人に減っていますが,自殺者数を人口で除した自殺率(b/a)も,22.0から17.6に下がっています(ベース10万人あたりの自殺者数)。

 「めでたし,めでたし」と言いたいところですが,動機別の自殺者数の変化を観察すると,近年の社会変化の影の面が見えてきます。

 警察庁の『自殺の概要資料』では,2007年より細かいカテゴリーを設けて,動機別の自殺者数を計上しています。一人の自殺者の動機が複数にわたる場合は,3つまで計上する方式です。よって数値は延べ数ということになりますが,ある動機(原因)で自ら命を断った若者の実数を知ることは可能です。

 データが得られる最も古い年次の2007年と,最新の2016年の統計を照らし合わせてみると,下表のようになります。


 最も多いのは,両年次とも「うつ病」です。次いで統合失調症,その他精神疾患といったメンタル要因が多くなっています。

 しかしここで注目したいのは,この10年間における変化です。2016年の自殺者数が50人以上で,2007年に比して自殺者が増えた項目に黄色マークをしました。マークがついているのは,親子関係の不和,就職失敗生活苦仕事の失敗,仕事疲れ,そして学業不振です。

 親子関係の不和は,進路選択などで親子間でもめる頻度が増えているのでしょうか。今の世代は時代の変化を見取り,大会社に入っても安泰でないことを知っており,いろいろな道に行こうとしますが,親からすればそれは許せない。いつの時代でもこういう世代葛藤は起きますが,激変期の現在では,それが殊に顕著なのかもしれません。

 前にニューズウィーク日本版に書きましたけど,親世代は,自分たちがたどってきた道を,子ども世代が子羊のようについてくる(これる)などと考えないほうがいいです。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2015/11/post-4092.php

 人手不足で就職市場が売り手市場になりますが,「シューカツ失敗自殺」も増えていますね。2010年頃に比したら数は減っていますが,お祈りメールを何十通も受け取り,自我を傷つけられ,将来展望に大きな不安を頂いた青年が自殺に傾きやすくなるのは道理です。私が試算したところによると,シューカツに失敗した学生の自殺率は国民全体の8倍を超えます。
http://tmaita77.blogspot.jp/2013/04/blog-post.html

 何度もいいますが,22歳で全てが決まる新卒至上主義などは,まずもって撤廃すべきでしょう。労働力不足が深刻化するなか,このシステムがいつまでも維持されるとは思いませんけれど。

 生活苦の自殺も増えています。仕事疲れの自殺も増加。どの業界も人手不足ですが,そのシワ寄せは若手にいくのが常です。2015年暮れに起きた,電通の若手女性社員の過労自殺が想起されます。

 「仕事の失敗」による自殺者は増加倍率が最も大きく,45人から78人へと1.73倍に増えています。今はどの職場も手取り足取り若手を育てるゆとりがなく,新人の失敗への寛容度が下がっているのでしょうか。

 学業不振の自殺も増えていますが,学生を締め付ける「大学の中高化」施策の影響かしらん。

 若者の自殺数,自殺率は低下の傾向にありますが,細かい動機別の統計を紐解いてみると問題がざくざく出てきます。数の上では小数ですが,黄色マークの数値は,近年のわが国の社会変化の影の側面を照らし出しているともいえるでしょう。