社会が求めるのはグレー・ブルーカラー,学校教育で量産されるのはホワイトカラー志望者。こんな状況になっているといえましょう。
それはさておき,こうした社会の人材需要の様は,学校卒業者の進路統計に表れています。高校よりも大学のほうが正社員就職率がいいと思われるかもしれませんが,さにあらず。高校の中でも専門高校,とりわけ工業高校などはがんばっています。
『学校基本調査』によると,2016年春の工業高校卒業生(全日制・定時制)は8万593人。この卒業者を進学者と非進学者に分け,その下の成分を面積図で表すと以下のようになります。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001011528
就職の意思のない進学者を除いた「非進学者」ベースで,正規職員として就職した生徒の比率を出すと96.1%にもなります。ほぼ全員です。建設業界の技術者や労働者への需要が著しく増しているためでしょう。
これは工業高校のケースですが,他の専門学科も健闘しているようです。高校の学科別の正社員就職率をみていただきましょう。上記と同じく,非進学者ベースの数値です。短大,高専,大学,大学院といった高等教育機関との比較もしましょう。
細かい学科(専攻)別の数値を出しました。90%を超える数値は赤色にしましたが,高校で多いではないですか。高校では5つ,短大では2つ,大学と大学院修士課程で1つです。
マックスは高等専門学校(高専)の96.7%,さすがですね。5年制の高等教育機関ですが,産業界からの評価がきわめて良好であることがよく知られています。
それに次ぐのが高校工業科で96.1%,その次が水産科の95.9%なり。農業科と福祉科もがんばっている。社会の人材需要の色が出ているといえましょう。
大学院は,上に行くほど正規職員就職率が下がりますけど,これについてはノーコメントとしておきましょう。
ただ社会に送り出される人材の量の上では,現在では大学学部の卒業者が最も多くなっています。それもそのはず。大学進学率が50%,つまり同世代の2人に1人が大学に行く時代ですので。
そこで,この段階の正社員就職率を,もうちょっと仔細に解剖してみましょう。上表は専攻別ですが,これをさらに設置主体別にバラしてみます。国立・公立・私立の別です。以下の表は,「設置主体×専攻」でみた正社員就職率の一覧表です。上記と同じく,2016年春の卒業生のデータです。
ほう。どの専攻でも公立大学の数値が最も高いですね。90%超の赤字も多くなっています。地域密着の公立大学は強いのでしょうか。量的に多い社会科学系の正社員就職率は,公立,国立,私立の順になっています。
教育の役割は,社会が求める人材を輩出することです。教育を社会に従属させろなどとはいいませんが,現実として,社会の人材需要の色が卒業生の進路に反映されています。
「悪さをしないで,社会の中での役割(仕事)をきっちりする人間になってほしい」。こういう思いで子育てをしている親御さんが多いでしょうが,無目的にわが子を上の学校に行かせても,あまりいいことはないように思います。
成人年齢を20歳から18歳に引き下げる法改正が議論されていますが。18歳というステージでの自立をもっと促してもよいでしょう。「無職博士を雇ったら500万円」とかいう政策がありましたが,高卒者を採ったら奨励金なんていうのがいいのでは。
社会の側がなすべきは,早い段階で社会に出た人間が,必要を感じた時に後から大学等の高等教育機関で学べるようにする制度を作ることです。未来形の大学の顧客は,やせ細っていく18歳人口ではなく,リカレント学生なのです。