2017年3月24日金曜日

なぜ二次元のグラフにするか

 先日,「宿題をするのにコンピュータをどれほど使うか」という問いに対する回答の国際比較グラフをツイッターで発信したところ,多くの方に興味を持っていただきました。

 横軸に「全く or ほとんど使わない」,縦軸に「ほぼ毎日 or 毎日使う」の回答比率をとった座標上に,世界各国を配置した二次元のグラフです。
https://twitter.com/tmaita77/status/844103078437502977

 日本は圧倒的に前者が多く後者がほぼ皆無なので,右下の外れた位置にあります。日本の学校教育のICT化の遅れはよく言われますが,それが怖いくらいに可視化されているので,「おお」と思われた方が多かったのでしょう。

 一方,疑問も呈されました。「なぜ二次元の散布図にするのか。普通は棒グラフだろう」と。なるほど,もっともな疑問ですが,何でもかんでもオーソドックスな棒グラフにすればいいってものでもありません。2つの変数をグラフにするにあたっては,横軸と縦軸を使った二次元の平面上にデータを配置するのも一つの手です。

 題材を変えて,具体的な例を紹介しましょう。ISSPが2012年に実施した「家族と性役割の革新に関する調査」では,「学校に上がる前の幼子の世話は,最初に誰が見るべきと考えるか」という設問を設けています(Q12)。
http://www.issp.org/page.php?pageId=4

 5つに選択肢から1つを選んでもらう形式です。以下に掲げるのは,調査対象の38か国の回答分布です。*ドイツは調査対象が東西で分かれています。


 「家族」という回答割合の高い国が多くなっています。日本もこのタイプで,調査対象の国民の76.5%が「家族」と答えています。

 しかしこれとは異なるタイプもあり,スウェーデンでは82.5%が「政府機関」と回答しています。この国では,保育所入所を希望する家族に定員枠を用意するのは自治体の法的な義務で,日本でいう「待機児童」は存在しないそうです。毎年,全国各地で保育所落選の悲鳴が上がる日本とは大違いです。

 公的保育の考え方が,国民の意識にもはっきり表れています。フィンランド,デンマークといった他の北欧国でもそうです。

 38か国の回答をみるに,「家族」ないしは「政府機関」という回答(赤字)が大半を占めるようですが,この2つの回答比率をグラフにする場合,どうしたものでしょう。多くの人が推奨する「棒グラフ」にすると,以下のようになります。


 青色のバーが「家族」,オレンジ色のバーが「政府機関」の回答比率ですが,グチャグチャで傾向が分かりにくいです。せいぜい5か国くらいまでならこういうグラフでもいいでしょうが,38か国ものケースになるとNGです。

 私は,こういう大量ケースの2変数をグラフにするときは,横軸と縦軸を駆使した2次元のマトリクス上に,それぞれのケースを配置することにしています。

 上記の見映えの悪いグラフを,この形式に変えてみましょう。横軸に家族,縦軸に政府機関という回答比率をとった座標上に,38か国を配置します。


 どうでしょう。横軸の値が高く縦軸の値が低い「家族型保育」の社会と,その反対の「社会型保育」の社会が見出されます。斜線は均等線で,この線より上にある場合,横軸より縦軸の値が高いことを意味します。

 38か国すべての国名を書き込むことはできませんが,自分の国の位置を知りたい,2つの変数による社会のタイプ分けをしたいという時,このグラフ技法は効果を発揮すると思います。

 日本は私型保育,北欧諸国は公型保育の社会ですが,核家族率に示されるような家族構造はほとんど同じです。日本でも,家族の小規模化・核家族化は欧米並みに進行しています。にもかかわらず意識は旧態依然のまま。このギャップから,虐待や介護殺人のような家族内の悲劇が起きているといえましょう。

 話が逸れましたが,大量ケースの2変数のデータをグラフにする場合,二次元の配置図が使える,という提案をしておこうと思います。コンピュータグラフィックの達人なら,3次元の立体図による3変数のグラフ化も可能なのでしょうが,私にはまだ,そこまでのテクはありません。