昨日の福井新聞に,「パワハラや過労,企業存続を左右 過去の発想では人材集まらない」という記事が出ています。
http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/society/117528.html
昔なら,しごきに耐え,長時間労働も厭わない労働者は集まったのでしょうが,最近はそうはいきません。今の学生が会社を選ぶ基準は,給与や知名度から,残業のなさや有休が取りやすいことといった「働きやすさ」にシフトしてきています。
これは随所で言われていることですが,上記の記事にとてもいいことが書いてありますので,引用させていただきましょう。
「長時間労働で疲弊した人は新聞を読む気力もなく,物事を深く考えなくなる。少しの情報だけで自分の意見を決める。それが世論になってしまう。欧州では家族で食事をとりながら会話をしたり,広場やカフェで自由に議論をしたりする。時間に余裕があるかどうかは,民主主義の成熟と深く関わっている可能性がある」。(福井新聞,2017年3月20日)
そうですねえ。日々の仕事で精一杯で,知の肥やしを得ることができなくなります。この記事では新聞に触れられていますが,国民の読書の頻度も減ってきている。とくに,働き盛りの年齢層においてです。
下のグラフは,過去1年間に,自発的な趣味としての読書をした人の割合の年齢カーブです。2001年と2011年の曲線が描かれています。
どの年齢層も,この10年間で読書の実施率が下がっています。この中には電子書籍による読書は含まれるでしょうから,スマホなどの危機の普及が原因ではありません。電子書籍を含め,書物を手に取る人間が減ってきている,ということです。
グラフから分かるように,それはとくに働き盛りの層で顕著です。2本の曲線の落差が大きくなっています。私の年齢層(40代前半)では,54.4%から45.7%へと,10ポイント近くの低下です。
バリバリの働き盛りですが,おそらくは長時間労働ゆえに,書を手に取るゆとりがなくなっているのでしょう。人手不足が影響しているのか,この10年間で平均仕事時間も増えています。
2011年のデータによると,40代前半の男性有業者の平均仕事時間は,平日1日あたり10時間を超えます。また,35~44歳の男性有業者の5人に1人が,1日12時間以上働いています。
https://twitter.com/tmaita77/status/843793188515078144
https://twitter.com/tmaita77/status/843774234740441088
加えて,育児と介護がかさなる「ダブルケア」の問題も出てきているのでしょう。晩婚化の進行により,この年齢層でも,手のかかる幼子がいる親御さんはたくさんいますし。それでいて,老親の介護ものしかかってくる。
ちなみに今世紀以降,国民の読書実施率マップの色も,全体的に薄くなってきています。以下に掲げるのは,10歳以上の県民のうち,趣味としての読書を過去1年間にした者の割合の都道府県地図です。
全国的に「知の剥奪」が進行している,といったら言い過ぎでしょうか。都市部で相対的に率が高いのは,書店や大きな図書館が多いためでしょう。
国を挙げて,読書活動推進に向けた取組がされていますが,現実はかくのごとし。とりわけ働き盛りの層でこの傾向が顕著なことから,モノ言わぬ労働者の増殖が進んでいることの数値的な表現といえるかもしれません。この上に,やりたい放題のブラック企業も蔓延ることになります。
ある程度の分量(深み)のある本を読まず,スマホでネットニュースの短いタイトル(リード文)をみて,それだけで自分の考えを決めてしまう。モノを深く考えない国民の増殖。恐ろしいことです,
最近,暴行犯の激増に象徴されるように,キレる国民が増えているといいますが,腰を据えて本を読まない人が増えていることとも関連しているような気がします。本を読まない子どもは,人の話を長く聞けない,キレやすい,という論文を読んだことがありますが,確かに頷けます。私なども,気を付けないといけないのですが。
政治の右傾化も,こうした土壌の上に蔓延りやすいことは,言うまでもないことです。