8月3日に,新刊『データでみる・教育の論点』が晶文社より刊行されます。400ページほどの厚さで,価格は1800円(税別)。何とか千円台に収まってよかった。
http://www.shobunsha.co.jp/?p=4364
本ブログの一部書籍化ですが,一冊の本としての筋を通すべく,記事の選定・配列に気を配っています。「子ども」「家庭」「学校」「若者」「社会」の5つの章構成です。
いろいろなグラフを盛り込んでますが,その一葉をお見せしましょう。第4章「若者」において,未婚化を扱った個所で載せたグラフです。正社員男女の平均年収の年齢曲線を,未婚者と既婚者で分けて描いたものなり。
2012年の『就業構造基本調査』に載っている,年収の度数分布表から,階級値の考えを適用して算出した平均年収です。
未婚者と既婚者の差が,男女で違うことに注目。男性は「未婚者<既婚者」ですが,女性はその逆です。女性の場合,結婚するといろいろ縛りが出ますので,正社員でもガシガシ稼ぐのが難しくなるのでしょう。
しかるに,未婚者の折れ線(青色)をみると,男女の型がほぼ同じです。未婚者では,正社員男女の年収の差はほとんどありません。
正社員であっても年収に男女差があるのは常識となってますが,それは未婚者と既婚者をひっくるめた話で,未婚者に限るとそうではないのですね。結婚がキャリアに及ぼす影響に,残酷なまでのジェンダー差があることが知られます。
ちなみに都道府県別にみると,未婚の正社員の平均年収が「男性<女性」の県もあります。この県別のデータは,上記の新刊には載せていません。ここで紹介する,オリジナルデータです。
働き盛りのアラフォー(35~44歳)の正規職員を取り出し,平均年収を県別・性別・配偶関係別に計算しました。チョー複雑な作業をしてみるみたいですが,今は「e-stat」で任意の変数のクロス統計表(↓)を自前で作れますので,何のことはないです。この機能を使いこなせるようになったら強い。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020101.do?_toGL08020101_&tstatCode=000001058052&requestSender=search
以下に掲げるのは,算出された平均年収の県別一覧表です。煩雑さを避けるため,小数以下を四捨五入した整数値で示しています。
一番下の全国値をみると,ジェンダー差は未婚者より既婚者で大きくなっています。男性が女性の何倍かを示す倍率(a/b)は,未婚者は1.10倍ですが,既婚者は1.53倍になり。
しかるに,様相は県によって多様です。未婚正社員の年収の性差が,かなり接近している県も多し。赤字は,ジェンダー倍率(男/女)が1.10未満の県です。結構あるじゃないですか。
それを通り越して,未婚正社員の平均年収が,男性より女性で高い県もあります。黄色マークの奈良,高知,沖縄です。年収は「男性>女性」という常識を覆すケースが出てきました。未婚者同士で比べると,こういうケースもあるのですね。
なお,上記の表は別の見方もできます。女性の年収を,未婚者と既婚者で比べることです。全国値をみると,未婚女性は380万円,既婚女性は354万円なり。同じアラフォー正社員女性ですが,結婚の損失でしょうか。東京などは,それがデカイっすねえ。
しかし,未婚者と既婚者の年収があまり変わらない県もあります。てか,目を凝らすと,未婚女性より既婚女性のほうが稼いでいる県もあるじゃないですか。黄色マークの3県はどれもそうですし,秋田は未婚女性が288万円,既婚女性が310万円と,「未婚<既婚」の度合いが比較的大きくなっています。
結婚による損失がない県もあるのですね。上記の表は,他にもいろいろな見方ができるかと存じます。全国値の傾向(常識)を覆すケースを発掘し,その詳細を明らかにする。そういう作業も求められるでしょう。何かファインディングスがありましたら,お教えいただければと存じます。
冒頭の新刊には,この手のデータを多く盛り込んでいます。難解な理屈や数式を並べ立てた本ではありません。夏休みの読み物として,多くの方が手に取ってくださることを希望いたします。