学歴別の年収・労働時間を,一風変わったグラフで表現してみました。ツイッターで発信したところウケているようですので,元データも添えてブログにも載せておきましょう。
労働者のお給料を学歴別に知れる公的な資料は,厚労省の『賃金構造基本統計』です。最新の2016年調査には,同年6月の月収と,前年(2015年)の年間賞与額が記載されています。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html
月収(諸手当込)を12倍して年間賞与額を足すことで,年収を推し量れます。この資料には,月の所定内労働時間と超過労働時間も出ていますので,両者の合算を12倍して,年間の労働時間としましょう。
私の年代(40代前半)の一般労働者について,学歴別の年収と年間労働時間を計算すると,以下のようになります。一般労働者とは,パート等の短時間労働者を除く労働者です。フルタイム労働者に近いとみてよいでしょう。
10人以上の民間企業に勤務する,一般労働者のデータです。原資料では,学歴は4つの区分になっています。
バリバリの働き盛りですが,男女とも年収は学歴によって大きく違っています。男性の中卒の年収は449万円ですが,大卒は720万円。女性の中卒と大卒は,倍近くの開きです。学歴社会ニッポン,未だに健在なり。
性差も大きいですね。男性の高卒(519万円)と女性の大卒(533万円)が同じくらいです。学歴差よりも性差に憤る人がいてもおかしくないでしょう。
労働時間にも学歴差があります。低学歴ほど長い傾向です。これは知らなかった…。
高学歴ほど年収が多く,労働時間が短いですので,前者を後者で割った時間給(a/b)は学歴ときれいに比例しています。男性では,大卒であるかどうかで違いが大きくなっています。
右端は,該当する労働者の推定数です。70年代生まれの私の世代では,中卒はマイノリティです。ただ今ほど大学進学率は高くなかったので,数としては男女とも高卒が最も多くなっています。20代だったら,大卒が最も多い「逆ピラミッド」になっているでしょう。
さて,上表のデータをグラフにしてみましょう。2次元の平面を駆使して,年収,労働時間,時間給,労働者数の4要素を軒並み表現してみます。
男女とも低学歴になるほど,労働時間が長く,年収が少ない右下にシフトしてきます。時間給も,男性の中卒は2000円,女性の中卒は1500円を割ります(斜線)。
アラフォーの学歴格差の可視化ですが,いかがでしょう。高学歴の労働者は生産性が高いのだから,高い給与を得て当然。ベッカー流の人的資本論に基づくコメントがツイッターで多数寄せられましたが,この古典理論を支持する人は今はそう多くないでしょう。
「大卒なら間違いない,地頭がいいので訓練可能性に富む」。こういう見方をとっている大企業が,人材選抜の(手軽な)シグナルとして学歴を使っているだけのこと。企業が大卒者を好んで雇うのは,彼らが大学で身に付けた知識やスキルに期待してのことではない。訓練可能性を見込んでのこと。こうした「シグナリング理論」が現実を言い当てているように思えます。
ただ上記のグラフは,学歴格差よりもジェンダー格差を如実に表しているともいえます。同学歴でも,男性と女性のドットの距離が大きい。労働時間を加味した時間給も,男性のほうがずっと多くなっています。諸外国のデータで同じグラフを作ったら,こんなふうになるでしょうか。
当人の仕事の質(何ができるか)よりも,性や学歴といった属性(何であるか)がモノをいう。近代社会が否定したはずの属性主義が生き長らえることを,われわれは見逃すべきではありません。