2017年7月17日月曜日

ワンオペ家事

 「ワンオペ」という言葉が流布しています。人手不足のファーストフード店の夜勤を,店員1人で切り盛りする。こういう状況を問題視したフレーズです。

 しかるにワンオペは,職場だけではなく家庭でも蔓延っています。よく聞かれるのは,ワンオペ育児です。夫が育児をせず,もっぱらその負担が妻に課せられる。現在,日経デュアルでこの問題の特集が組まれており,読者の関心を集めています。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=10851

 私も同Web誌で連載を持っていますので,この問題に関するデータを提示できないかと前から思っていました。基本事項として,共働き夫婦のうち,妻のワンオペ育児の状態にある夫婦が何%くらいか。ワンオペ育児の量を可視化したい。

 こういう関心のもと,『社会生活基本調査』の統計表を細かくみたところ,ワンオペ家事の夫婦の比率を捻り出せることを知りました。2011年の同調査の生活時間統計によります。

 生活時間統計(A)の表64では,共働き世帯の数が,夫と妻の家事関連時間(1日あたり)の階級別に集計されています。家事関連時間とは,家事と買い物時間の合算です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001040666&cycode=0

 手始めに,0歳の乳児がいる共働き夫婦のクロス統計表をみてみましょう。下表は,カテゴリーを簡略化した「5×5」のクロス表です。表側(タテ)は夫,表頭(ヨコ)は妻の家事関連時間(平日1日あたり)の階級です。各セルには,該当する世帯の数(千世帯)が示されています。


 合計30.5万世帯ですが,夫の家事時間がゼロの世帯が多いですねえ(一番上の行)。夫の家事時間がゼロで,妻がそうでない「妻ワンオペ家事」世帯は,黄色マークのセルに該当します。その数13.4万世帯で,全体の43.9%に該当します。

 妻はパートないしは時短勤務という世帯が大半でしょうが,これは酷い。手のかかる赤ちゃんがいる共働き世帯の半分弱が,妻ワンオペ家事の世帯であると。せいぜい2~3割くらいかと思ってましたが,ここまで多いとは驚きです。

 これは平日のデータですが,土曜や休日になると,さすがに少しは比率が下がります。しかるに,子どもが大きくなるにつれ,事態は悪化してきます。

 私は同じやり方で,共働き世帯に占める「妻ワンオペ家事」世帯の割合を,曜日別,末子の年齢別に計算してみました。下図は,結果をグラフにしたものです。


 子どもが大きくなるにつれて,妻ワンオペ家事世帯の比率が高くなっていきます。平日でみると,末子が学齢(6歳)に達した以降は,およそ8割で推移します。土曜は6割,休日は半分ほどです。子どもが加勢するようになるからかもしれませんが。

 これは共働き世帯のデータです。夫婦ともフルタイム勤務の世帯では状況は違うでしょうが,妻が一手に家事を担っているワンオペ世帯がここまで多いとは,看過できることではありません。

 ここでみたのはワンオペ家事の世帯割合ですが,ワンオペ育児の世帯量も,同じようなものかもしれません。

 最新の2016年調査のデータでは,何%くらいになるでしょう。2016年の生活時間調査の結果は,9月に公表されます。はて,ここ数年のワークライフバランス政策の効果が実証されるかどうか…。

 その前に,国際比較もやってみたいところ。ISSPの「家族と性役割の変化に関する意識調査」(2012年)で,家事・育児時間を訊いていたような。「夫ゼロ,妻その他」のワンオペ世帯率が国によってどう違うか。日本の位置はどうか。あまりやりたくない分析ですが,避けては通れない課題です。