2011年3月26日土曜日

大卒者の賃金の国際比較

 前回みたように,わが国では,学校化が進行し,上級学校に進む者が非常に多くなっています。2010年春の大学進学率は,51.0%です(18歳人口ベース)。それだけに,大卒者の「非」特権化も進んでいるものと思われます。

 今回は,わが国の大卒者の相対賃金がどれほどのものか。また,それは国際的にみて,どの辺りに位置づくのかを明らかにしようと思います。

 OECDの"Education at a Glance 2010"には,高卒者(高等教育に括られない中等後教育機関の卒業生も含む)の賃金を100とした場合の,大卒・大学院卒の相対賃金が掲載されています。日本の25~34歳の場合,その値は138.9です(2008年)。おおよそ,1.4倍というところです。この値を,OECDの27か国の中に位置づけてみましょう。各国の統計は,2008年もしくは使用できる最新の年次のものだそうです。資料のURLは以下です。
http://www.oecd.org/document/52/0,3343,en_2649_39263238_45897844_1_1_1_1,00.html#d


 日本の値は,OECD平均を下回っています。表では,値が高い順に国を並べていますが,最も高いのはハンガリーで191です。その次がアメリカ,ポルトガル,トルコ,と続いています。逆に低いほうに注目すると,デンマークやノルウェーといった北欧諸国で大卒者の相対賃金が低くなっています。

 各国の値の高低は,おそらく,大卒者の量的規模と相関していることと思います。OECDの同じ資料によると,わが国の25~34歳人口に占める大卒者の比率は31%ですが,大卒者の相対賃金が最高のハンガリーでは,23%と少数派です。一方,大卒者の賃金が高卒とさして変わらないノルウェーでは,大卒者が全体の44%をも占めています。


 両変数の相関関係を図示すると,上図のようになります。大卒者の量が増えるほど価値が下がるといいますか,負の相関です。相関係数は-0.5394で,統計的に有意です。しかし,アメリカのように,大卒者が多いにもかかわらず,その相対賃金が高い国も存在します。

 アメリカは超のつく学歴社会で,高卒だと,マクドナルドの店員にしかなれない,という文章を何かの本で読んだ覚えがあります。一方,同程度,いやそれ以上に高等教育が普及していても,デンマークやノルウェーでは,そのような学歴による違いは存在しないようです。

 高等教育が普及した社会というのは,2つのタイプに分けられます。その1は,大学を出ないと,人並みの生活から締め出される社会です。アメリカはその例でしょう。その2は,大学を出ても大したことはない,という社会です。北欧の諸国がこれに該当すると思います。

 今後,日本の位置はどのように変化していくのでしょうか。図の右上(アメリカ方面)にいくのでしょうか。それとも,右下(北欧方面)にいくのでしょうか。私としては,後者であってほしいと思います。