2013年1月17日木曜日

失業と強盗

 昨年の12月18日にツイッターをはじめてから,およそ1か月が経ちました。興味をもったニュース記事の記録や日記に使っています。

 また,統計グラフの試作品も画像添付の形で公開しております。長いコメントを添える必要がない,「ただ見てほしい」というグラフはツイッターのほうで展示しております。こちらも,ご覧いただけますと幸いです。

 さて,自身のツイートの軌跡であるツイログをざっと見返したところ,「発煙筒持った男,すき家で客の夫婦脅し財布奪う」(読売新聞Web版,2012年12月30日)という記事が記録されていました。強盗事件の記事ですが,「また,すき家か・・・」という感想を持たれた方が多いと思います。

 安価がウリの牛丼チェーンの「すき家」ですが,このチェーン店では強盗事件が多いな,という印象を持ちます。店舗の構造とか売上金の管理の仕方とか,犯行に及ぶ側にとって都合のいい条件があるのか知りませんが,ネット上では「すき家強盗マニュアル」なるものまで出回っている模様です。

 強盗とは,他人の金品を強奪する行いですが,このご時世です。生活苦から,この手の凶悪犯罪に手を染める輩もいることでしょう。生活苦の主な原因は,収入源を断たれることであると思いますが,こういう事態がどれほどあるを測る指標があります。それは失業率です。

 失業率とは,完全失業者数を労働力人口で除して算出されます。働く意欲のある労働力人口のうち,職に就けないでいる者がどれほどいるかです。働いて収入を得る必要に迫られているにもかかわらず就労できない・・・。このような人間がどれほどいるかは,凶悪犯罪の発生地盤となる生活苦の量のバロメーターであるといえるでしょう。

 私は,失業率と強盗率がどう推移してきたのかを調べました。おそらくは,両指標の間には強い共変関係がみられるであろう,という仮説においてです。なお,失業と強盗の関連の仕方は年齢層によって異なると思われるので,年齢層ごとの分析をしています。この点は,今回の作業の特徴です。

 まずは,20代の若者について,失業率と強盗犯出現率の時系列推移をたどってみましょう。観察期間は,1970年(昭和45年)以降のおよそ40年間です。後者の強盗犯出現率とは,当該年齢の強盗検挙人員を人口で除して算出するものです。各年において,強盗犯が出る確率を表す指標です。以下では,強盗率といいます。

 指標の計算過程をイメージしていただくため,分子と分母の推移も漏れなく掲げます。失業率の分子と分母は総務省『労働力調査』から得ました。強盗率の分母の人口は総務省『人口推計年報』,分子の強盗検挙人員は警察庁『犯罪統計書』から採取したことを申し添えます。


 20代の失業と強盗の42年史です。1970年代は失業率微増,強盗率は低下という傾向ですが,80年代以降は,両指標は大よそ歩を同じくしているように思えます。90年代後半以降の不況期にあっては,失業と強盗の共増が明らかです。彼らの苦境が表れていますね。

 1970年から2011年までの42の経験データを使って,20代の失業率と強盗率の相関係数を計算したところ,+0.4858となりました。1%水準で有意な正の相関です。背後のもっと大きな変動を介した疑似相関である可能性も否めませんが,失業(生活苦)→強盗というような,因果関係の側面も含んでいると思います。

 では,他の年齢層ではどういう相関係数値になるでしょうか。1970年からの時系列データを使って,失業率と強盗率の相関係数を年齢層ごとに出してみました。結果は以下のごとし。

 20代 ・・・ +0.4858
 30代 ・・・ +0.7917
 40代 ・・・ +0.9278
 50代 ・・・ +0.9080
 60代以上 ・・・ +0.6928

 ほう。40代をピークとした山型になっています。しかし,40代の+0.9278という係数値は高いですねえ。これはもう,失業率が分かれば強盗率をほぼ正確に予測できるレベルです。この年齢層については,統計グラフをみていただきましょう。


 2本の曲線は気味が悪いほど似通っています。20代とは違って,共変傾向が観察期間中一貫しています。40代にあっては,失業と強盗の共変関係の普遍度が高いことが知られるのです。

 40代といえば,子の扶養と同時に老親の扶養も期待される,いわゆる「サンドイッチ」年代です。それだけに,収入源を断たれる失業が痛手となる度合いは,他の年齢層に比して高いのではないかと思います。

 扶養家族がいるので,自らの命を断つことはできない。そこで危機状況打開の経路を,外向的な逸脱行動に求める。このようなことが起こり得る頻度も高いのではないでしょうか。ちなみに,自殺のような自己破壊行動の頻度と失業の関連が最も強いのは,50代であることを付記しておきます。

 40代。若年層と高齢層の谷間に位置し,あまり注目されることのない年齢層ですが,上で述べたような困難な条件を抱えた層でもあります。この年齢層の状況への目配りを怠ってはなりますまい。

 年齢層ごとにバラした分析をしてみると,未知の知見が得られることがしばしばあります。分析とは,全体を「分」けて解「析」することです。今後も,この作業を継続していきたいと思うのであります。